上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

米国ではブタの心臓を人間に 「異種移植」は長く研究が続けられている

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 今年1月に米国でブタの心臓を移植した57歳の男性が、2カ月後に亡くなったというニュースが報じられました。

 その男性は“末期の心臓疾患”でしたが、人間の心臓移植は不適格と判断され、常に人工心肺装置を装着した状態でした。他に治療の選択肢がなく、すぐに移植を受けなければ命の危険があったため、米食品医薬品局(FDA)が現時点では研究段階のブタの心臓移植を緊急承認し、メリーランド大学医療センターで移植手術が行われたのです。

 移植に使われたブタの心臓は、人体で拒否反応が起こらないように遺伝子操作でつくられたものです。まず遺伝子を追加・削除したブタの細胞から「ブタ胚」を生成し、管理された環境でブタの飼育を行って成長させた後、ブタから臓器を取り出して移植するという手順だったとのことです。

 移植手術を受けた後、容体は良好で自力でも呼吸できるようになったそうですが、3月初旬に容体が悪化してそのまま息を引き取りました。術後1カ月の時点では拒絶反応の兆候は見られないとされていたのですが、その後どのような経過をたどって、死因はなんだったのかについてはまだ明らかにされていません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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