上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

米国ではブタの心臓を人間に 「異種移植」は長く研究が続けられている

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 近年は動物愛護の観点から、動物実験用に生きたブタに麻酔をして模擬手術を行った後に犠牲死させるといったことは避けられるようになりましたが、食肉用に解体された後の臓器を医学的に転用することは許容されているのです。

■移植用の臓器は大幅に不足している

 先ほどもお話ししましたが、今回の移植手術で使われたブタの心臓は、遺伝子操作した細胞をベースにして育成されたブタから取り出されたものなので、最初から異種移植の研究用としてつくられたということになります。

 遺伝子操作を活用した研究は、われわれ順天堂大学でも行われています。たとえば、遺伝子の一部を組み換えることで、研究の対象としている疾患を発病するマウスは飼育法も単純なので作成は可能です。そうした遺伝子操作の手法の進歩によって、疾患を発病するモデルとは反対に、拒絶反応を起こさないようにする「免疫寛容」という体質を持ったブタの作成も可能になったのです。しかし同時に感染症にも弱くなるため、マウスよりも相当長い発育期間が必要で、さらにその間の飼育法や感染対策に高度な管理が求められるのは言うまでもありません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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