上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

米国ではブタの心臓を人間に 「異種移植」は長く研究が続けられている

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 また、遺伝子操作を行った生体の臓器とはいえ、人間の体にとっては“異物”ですから、拒絶反応を完全にゼロにすることはできません。ですから、遺伝子のどの部分を組み換えれば、人間の体内で拒絶反応を起こしにくくなり、免疫抑制剤を使えば管理できるようになるのか……そのレベルに達するまで研究を重ねて試行錯誤を繰り返し、ようやく受容できる範囲の臓器をつくることが可能になったと考えられます。

 今回は残念ながら患者さんを救うことはできませんでしたが、これからも異種移植の研究はさらに続き、進歩していくのは間違いありません。というのも、現状では人間と人間=同種間での移植用の臓器が大幅に不足しているからです。

 日本では、臓器の移植を希望して待機している患者さんが約1万5000人いるといわれています。対して、実際に移植を受けられた人は年間およそ400人ですから、まったく足りていない状況です。また、米国では移植希望で待機中の人は10万人に上るといわれ、臓器の提供を待ちながら1日平均17人が死亡しているという報告もあります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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