政府や専門家は「オミクロン株」をどう見ているのか…医療情報学教授が分析

新型コロナワクチンの3回目接種を受ける感染症対策分科会の尾身会長(代表撮影)
新型コロナワクチンの3回目接種を受ける感染症対策分科会の尾身会長(代表撮影)

 WHO(世界保健機関)のホームページにはいまでも、オミクロン株は「デルタを含む他の変異株に感染した場合と比較して、より重症化するかどうかはまだ明らかではない」と書かれている。そのためか、日本政府のコロナ対策も、社会・経済活動の本格的再開には消極的である。しかしこれは、われわれ庶民の感覚と乖離しているように思われる。実際どうなのか、政府関係の公式資料をもとに検討してみよう。

 まず国立感染症研究所が今年の2月18日に発表した、「SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第5報)」だ。入院患者139人を対象にした調査で、サンプル数が少ないのは気になるが、重要な事実が書かれている。

 この139人のうち、実際に肺炎を発症していたのは7人にすぎなかったというのである。

 入院患者は主に重症者で占められ、多くが肺炎にかかっていると思っていた人も多いと思うが、かなり拍子抜けな数字だろう。しかも残りの患者の主な症状は、咳(56.8%)、発熱(56.1%)、咽頭痛(41.7%)、鼻汁(32.4%)など、いわゆる上気道炎(普通の風邪)に共通するものだった。

 新型コロナの出始めの頃は、風邪症状は少なく、いきなり肺炎を発症するケースが多かったことが知られている。

 しかし最近は、風邪で受診した患者を念のため検査したらコロナだった、というケースが増えているらしい。検査しなければ、そのまま「風邪」だし、そういう人が実際に大勢いるはずである。

 先月30日に開催された厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの「資料1 直近の感染状況等の分析と評価」には、もっと突っ込んだことが書かれている。「オミクロン株の特徴に関する知見」の「重症度」の項をまとめてみた。
1:オミクロン株による感染は、デルタ株に比べて相対的に入院、重症化のリスクが低い可能性が示されている。
1-①:ただし現時点でのオミクロン株による致死率や、肺炎の発症率については(データが少ないものの)季節性インフルエンザの致死率、肺炎発症率よりも高いと思われる。
2:オミクロン株による死亡者は、昨年夏の感染拡大(デルタ株)と比べ、80歳以上の占める割合が高くなっている。
2-①:死亡者の多くは、感染する以前から医療機関や高齢者施設に入所していた。
2-②:高度な治療を希望しない人や、基礎疾患の悪化等の影響で(新型コロナの)重症の定義を満たさずに死亡する人など、新型コロナウイルス感染症が直接の死因でない事例も少なくない。

 オミクロン株は、まだインフルエンザより毒性が強いかもしれないが、死亡者の多くが高齢者で、新型コロナが直接的な死因ではない人が少なからずいるというのである。しかも多くが感染以前から、おそらくは要介護(寝たきり)状態で介護施設などに入っていた。そのことがアドバイザリーボードの資料に明記され、厚労省の担当者や専門家によって共有されている。

 しかし、資料には具体的な数字が書かれていない。厚労省は数字的根拠を握っているはずだが、それを公開しないのは不十分だろう。

■ウィズコロナか社会活動の再制限か議論が大切

 ただアドバイザリーボードには、具体的なコロナ対策を提言するような役割は与えられていないらしい。

 そのため資料には、従来通りの当たり障りのないことしか書かれていない。

(A)学校・幼稚園・保育園等では、教職員のワクチン接種、分散登校、リモート授業など(B)介護福祉施設では、入所者と職員に対するワクチンの3回目接種など(C)職場においては、テレワークの活用、休暇取得の促進、体調管理の徹底、ワクチンの3回目接種などが大切だとしている。

 また「今後はリバウンドの可能性が懸念される」として、マスク、手洗い、換気、密集を避けるなど、従来の対策の継続が重要としている。

 オミクロン株、とくに新たに登場したBA.2株は感染力が強い。これからゴールデンウイークにかけて感染者が大幅に増えることは、各国の状況から見てもほぼ確実である。

 そうなったときに、それでもウィズコロナを目指すのか、再度、社会活動を制限するのか、といった議論が大切だろう。

 だが、その問題を真面目に検討している委員会が見当たらない。そのことのほうが、むしろ怖いのではないだろうか。

(永田宏・長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授)

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

関連記事