がんと向き合い生きていく

悪性リンパ腫と闘う若者は友人の死に泣きながらギターを弾いていた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 同じ病棟のB子さんは急速に進むタイプの悪性リンパ腫でした。3回目の入院の時、B子さんは担当のD医師に言いました。

「D先生、私の家は焼き鳥屋なんだ。私が治ったらさぁ、先生、店に来て。うちの焼き鳥、うまいんだよ。においがするから病院には持ってこられないしね」

 D医師は「よし、行くよ」と答えました。

 しかしその後、B子さんは焼き鳥の話をしなくなりました。治療後、一時的にリンパ腫が小さくはなっても、すぐに大きくなって病状は厳しくなり、個室に移ることになったのです。

 時々、A君たちがこっそりB子さんの病室を訪ね、病院のスタッフはそれを見て見ぬふりでした。2カ月後、B子さんは亡くなりました。

 A君は、亡くなったB子さんの部屋に入りたいとスタッフに頼みました。結局、死後の処置(エンゼルケア)の後、A君は仲間の患者と一緒にB子さんの病室に入り、葬儀社が来るまでの間、泣きながらギターを弾きました。B子さんのご家族は、涙しながらじっと聴いていました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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