がんと向き合い生きていく

悪性リンパ腫と闘う若者は友人の死に泣きながらギターを弾いていた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 A君は入院治療を繰り返し、勤務していた会社を辞めることになりました。その1年後、A君は亡くなりました。

 病院を訪れたA君の母親は「お世話になりました。ありがとうございました」と、D医師に頭を下げます。D医師は「こちらこそ。A君には、私たちもみんなもたくさんお世話になりました」と答えました。

 D医師は、以前から「若い患者同士は、病気と闘う同じ戦士だった。そしてA君は仲間の若い患者たちの心の支えになっていた」と思っていました。病気と闘い、先が見えない不安を抱え、仕事を失い、なおも病気と闘い、仲間を支え、ギターを弾く……それがA君の最期の生きる姿でした。

 いま、がんの診療は外来治療が中心となり、そしてがん相談支援室やがん経験者によるピアサポートも可能となっています。しかし、その利用は少ないようです。

 A君は最後の入院の時だけは、病院にギターを持ち込んではいませんでした。

4 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事