A君は入院治療を繰り返し、勤務していた会社を辞めることになりました。その1年後、A君は亡くなりました。
病院を訪れたA君の母親は「お世話になりました。ありがとうございました」と、D医師に頭を下げます。D医師は「こちらこそ。A君には、私たちもみんなもたくさんお世話になりました」と答えました。
D医師は、以前から「若い患者同士は、病気と闘う同じ戦士だった。そしてA君は仲間の若い患者たちの心の支えになっていた」と思っていました。病気と闘い、先が見えない不安を抱え、仕事を失い、なおも病気と闘い、仲間を支え、ギターを弾く……それがA君の最期の生きる姿でした。
いま、がんの診療は外来治療が中心となり、そしてがん相談支援室やがん経験者によるピアサポートも可能となっています。しかし、その利用は少ないようです。
A君は最後の入院の時だけは、病院にギターを持ち込んではいませんでした。
がんと向き合い生きていく