ニューヨークからお届けします。

ワクチンと人工妊娠中絶をめぐり、米国で保守とリベラルが激しく分断

中絶反対の看板をフェンスに掲げる高校(ケンタッキー州)
中絶反対の看板をフェンスに掲げる高校(ケンタッキー州)/(C)ロイター

 中間選挙を半年後に控えたアメリカでは、「人工妊娠中絶」と「コロナワクチン」という、一見まったく関係がなさそうな2つの医療問題をめぐり、保守とリベラルの分断が激しくなっています。

 アメリカでは1973年、最高裁が人工妊娠中絶を基本的な女性の人権として認めて以降、リベラル寄り民主党は賛成、保守寄り共和党は反対とはっきり分かれています。21世紀に入ってから薄れつつあったその分断を復活させたのがトランプ元大統領で、公約に人工妊娠中絶の非合法化を掲げ、女性への罰則も示唆するなどしてキリスト教福音派を筆頭に中絶反対派の保守層に強くアピールしました。

 一方ここ数年、保守州では人工妊娠中絶非合法化の動きが急速に進み、今年中にそのひとつが最高裁で審査されることになっています。トランプ前大統領による3人の保守判事指名で、最高裁は史上まれに見る保守寄りの状況ですから、非合法を認める判決が出る可能性も大いにあり、中間選挙に向けて保守派の鼻息は荒くなっています。

 もうひとつがコロナワクチンの可否。やはりトランプ前大統領の影響ですが、アメリカでは反ワクチン派や反マスク派、ここから派生した陰謀論者も保守派が支配的で、これは中絶反対派のグループとも重なってきます。

 ところが、彼らの主張に大きな矛盾があると指摘するのはリベラルです。ワクチンやマスク反対の根拠として、中絶を支持する擁護派とまったく同じスローガンを掲げているからです。

 ワクチン反対派は「私の体のことは自分で決める」と接種拒否を正当化していますが、中絶擁護の伝統的なスローガンも同じ「私の体のことは自分で決める」です。つまりまったく同じ主張なのに、中絶に関しては認めないという矛盾が生じているのです。

 これに保守政治家ものらりくらりと乗っかり、その結果、分断に振り回されるのは一般市民という、この状況そのものが“アメリカ病”という批判も少なくありません。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

関連記事