Dr.中川 がんサバイバーの知恵

藤子不二雄Aさんは術後7カ月で…大腸がんと腸閉塞の予防の盲点

藤子不二雄Ⓐさん
藤子不二雄Ⓐさん(C)日刊ゲンダイ

 中高年なら、藤子不二雄さんの作品は人生のどこかで通る道でしょう。私も、「笑ゥせぇるすまん」をはじめファンでしたから、藤子不二雄(A)さん(享年88)が亡くなったことは残念です。

 訃報にふれ、生前の生活ぶりが報じられています。それによると、2013年になじみの医師の勧めでPET検査を受けたところ、大腸の右側の上行結腸に影が見つかり、腹腔鏡手術で切除。がんの大きさは2センチで、転移はなし。自覚症状がなくてショックだったそうですが、早期だったからこそ、がんが悪さをすることなく、それから9年、天寿を全うできたのだと思います。

 大腸がんも胃がんも、早期ならほぼ100%近く治りますから、早期発見を心掛け、がん検診や健康診断を毎年しっかりと受診することです。(A)さんのように「たまたま」を期待するのはよくありません。

 大腸がんの場合、早期切除した後の注意点は、腸閉塞です。(A)さんも経験しました。手術から7カ月後です。「そんなに経ってから」と思うかもしれませんが、術後の合併症としての腸閉塞は、術後半年から2年くらいが要注意。中には術後10年で生じるケースもあるのです。

 手術などで腸壁に傷がつくと、そこを修復するためのタンパク質が分泌されます。その働きで、腸が、傷口や腸壁などと癒着。その部分を中心に、腸がねじれたり折れたりすると、腸閉塞が生じるのです。

 そうなると、絶食が必要で、治療に時間を要し、手術が必要になることも珍しくありません。(A)さんは、鼻から腸まで管を入れ、滞っているものを吸い取る治療をして、退院できたのは20日後だったそうです。

 大腸がんは、肉や油ものを中心とする欧米の食事がよくなく、繊維質の豊富な野菜や海藻は予防になります。ところが、こと術後に限ると、消化しにくい油ものに加え、野菜や海藻なども腸の負担になります。野菜が好物の(A)さんも、術後の食事制限がつらく、控えていた酒も少しずつ飲むようになって、中華料理店での食事を終えると、腹部の激痛を感じたそうです。

 腸閉塞に確立された予防法はありません。早食いや暴飲暴食を避け、消化の悪い食品を控えることが大切です。便秘解消のため、繊維質が豊富な野菜や海藻、キノコなどをたくさん取る人がいますが、腸に詰まりやすく逆効果。水分をこまめに取って、よくかみ、適度な運動を心掛けるとよいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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