これまでなかった認知機能スケール「あたまの健康チェック」を受けてみた

健康な人向けのテストはなかった
健康な人向けのテストはなかった(C)日刊ゲンダイ

 認知症の7割を占めるアルツハイマー病は、現段階では完治させる薬がない。だからこそ、今やるべきなのは、アルツハイマー病の発症リスクを下げること。役立つのが「あたまの健康チェック」だ。

 アルツハイマー病の原因となるタンパク質「アミロイドβ」は発症の20~25年ほど前から蓄積が始まる。この段階では認知機能は正常だ。

 そのうち、本人が忘れっぽさを感じるようになり(主観的認知機能低下)、やがて生活に支障はないものの認知機能の低下が見られるようになる。アルツハイマー病の前段階「軽度認知障害(MCI)」だ。

 MCIの後半になると脳の萎縮が見られ、MCIの半分は5年以内にアルツハイマー病に移行するといわれている。アルツハイマー病対策は脳の萎縮が始まってからでは不十分で、認知機能の低下が見られる前から行うのが理想だ。

「研究でアルツハイマー病のリスク因子は明らかになっており、改善できるものも少なくない。発症前にやれることはたくさんあります」

 こう言うのは、愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授の伊賀瀬道也医師。2006年に国立大学としては先駆けとなるアンチエイジング研究の抗加齢センターを同大医学部付属病院に開設した抗加齢医学研究の第一人者だ。

 アルツハイマー病のリスク因子とは、教育不足、高血圧、聴覚障害、喫煙、肥満、うつ病、運動不足、糖尿病、社会的接触の少なさ、過度のアルコール消費、外傷性脳損傷、大気汚染。すべてのリスク因子の改善に取り組めば、世界の認知症の40%は修正可能とのこと。それに関する論文は世界5大医学雑誌の一つに数えられる「ランセット」に掲載されている。

■「今」を知ることがアルツハイマー病の予防につながる

 さて「あたまの健康チェック」とは、若年層や物忘れの訴えのない人を対象に認知機能をチェックする日本初のスケール。FDA(アメリカ食品医薬品局)が新薬治験時に採用するほど国際評価が高く、日本全国の医療機関、地方自治体、企業などで取り入れられている。伊賀瀬医師も06年から抗加齢ドックの検査項目や研究時の指標として用いている。

「従来の認知機能検査では若年層や物忘れの訴えのない健常者に関しては評価できず、MCIでも軽症では評価が困難でした。しかし認知症予防においては、症状がない段階からの介入が非常に重要。物忘れがない段階からの認知機能のチェックは、アルツハイマー病のリスク因子を避ける生活を自然と意識することになり、結果的にアルツハイマー病の発症リスクを下げると考えています」

 開発したミレニアを通して「あたまの健康チェック」を受ける場合は、1回3850円。電話で受けられる。流れは、こうだ。①オペレーターが言う10個の単語を復唱し、その後に覚えている単語を挙げる。これを3回繰り返す。②オペレーターが言う3つの動物から、仲間はずれだと思うものを挙げる。10問程度行う。③最初に言われた10個の単語を覚えている限り挙げる。なお、覚える10個の単語は関連性がなく、毎回異なる。

「睡眠不足や疲労など、その時のコンディションで結果が異なることは大いにある。毎日の体重測定で生活習慣を見直せるように、あたまの健康チェックで生活習慣を見直すようにしてほしい。健康診断のように定期的に受けるのが望ましい」

 記者(48)と知人(54)も受けてみた。2人とも休肝日ゼロで、アルツハイマー病のリスク因子「過度のアルコール消費」に該当するため、将来のアルツハイマー病が心配……。必死で覚え込んだおかげか、記者「認知機能指数79.3」、知人「78.38」でどちらも「正常な状態」。ほっと胸をなで下ろす一方で、確かに、この指数を維持するために、酒量を少し見直すか、という気になった。

■注目の治療薬は…

 アルツハイマー病の世界初の治療薬として注目されていた「アデュカヌマブ」だが、昨年12月、厚労省の薬事・食品衛生審議会の専門家部会は「現時点のデータでは、有効性を明確に判断することは困難」として承認を見送った。

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