60歳からの健康術

眼科編(9)これまでにない眩しさを感じたら目の病気を疑う

写真はイメージ

 強い光を受けた際に、不快感や目の痛みなどが生じることを日本の医学用語では「羞明(しゅうめい)」と言う。「明るい光を恥ずかしく感ずる」という訳語だ。英語ではフォトフォビアがそれに相当する。その症状の背景にはさまざまな目の病気が潜んでいることがあるという。眼科専門医で「自由が丘清澤眼科」(東京・目黒区)の清澤源弘院長に話を聞いた。

「羞明とは自分が適切であると感ずる光の量よりも、目に入る量が強くて、苦痛を感ずるという状態です。“まぶしさくらい”と思われる方もおられるでしょうが、それが苦痛で常に部屋のカーテンを閉め切り、電気も消して頭から一日中毛布をかぶって引きこもり状態で暮らしている眼球使用困難症という病気の患者さんもいらっしゃるのです」

 羞明の原因の多くは網膜や視神経に対する過度な刺激による眼科的な要因だという。

「羞明が問題になる目の疾患は、ドライアイ、瞳孔散大、白内障、ぶどう膜炎、網膜色素変性症他の網膜疾患、視神経炎などが挙げられます。いずれも、自分が許容できる光の量よりも目に差し込む光の量が多い時に起こります。一方、脳炎、髄膜炎、くも膜下出血など脳の周りの髄膜に刺激がかかる疾患でも羞明を訴えることがあります。その他の原因には、片頭痛、二日酔い、慢性疲労症候群、ベンゾジアゼピンの使用中止に伴うものなどが挙げられています」

 目に入る光は網膜に1億個ほどある視細胞で感受され、網膜内で何回かシナプスを乗り換えて情報が収斂(しゅうれん)されて網膜神経節細胞に至る。さらに視床の一部である外側膝状体(がいそくしつじょうたい)に信号として伝えられる。そこで視覚情報はさらに処理整理されて、後頭葉の視覚領へと伝えられる。

「こうした光の経路の中で、まぶしさを感ずるのはどの部分かが問題になります。以前、私たちは目を開け続けていることができないという原発性眼瞼痙攣(がんけんけいれん)の患者さんを調べました。まぶしさを訴える群と訴えない群の2群に分けて脳の動きを比較したところ、まぶしさを訴える患者さんは視床と呼ばれる部分の活動が高進していることがわかりました。視床はあらゆる感覚の脳への中継核ですから、この結果は納得できるものです」

 最近の研究では、網膜の視神経線維を出す神経節細胞の中に視細胞を介さずに光を感ずる細胞が僅かに混ざっていることが明らかになっている。

「その細胞からの信号が特に増幅され、片頭痛患者でまぶしさを引き起こしているとの驚くべき結果も報告されています」

 まぶしさを感ずる光には波長に特徴があって、青から緑にかけての波長が特に羞明を引き起こすことがわかっている。そのあたりの色の光を選択的に遮る黄色を中心とした色眼鏡を作ればまぶしさは軽減できる。これが遮光眼鏡だ。まぶしさが気になったら、眼科医に目の病気がないか、診てもらうと共に遮光眼鏡の適応を相談するとよいかもしれない。

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