Dr.中川 がんサバイバーの知恵

バイアグラも効かないがんの手術後ED 前立腺、直腸、膀胱などで影響大

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 男性にとって、EDは切実な問題でしょう。ストレスや不安、緊張など精神的な影響による機能性EDと、勃起に関係する血管や神経などの異常が原因の器質性EDがあります。実は、がんの治療によって、EDになることがあるのをご存じでしょうか。

 その代表が、前立腺がんや膀胱がん、直腸がんなど骨盤内のがんです。手術で勃起神経を切断することが主な原因。特に男性の9人に1人がかかる前立腺がんの影響が大きい。

 前立腺は、膀胱の下にあるくるみ大で、その外側の左右に勃起神経が走っています。前立腺にがんができると、多くは中心から離れた外側にできやすい。前立腺がんを根治するには、手術で勃起神経が障害されやすいのです。EDの症状の重さは、2つの神経の障害の大きさによります。両方が障害されると、深刻です。神経が切除されてしまうと、バイアグラに代表されるPDE5阻害薬も効きません。

 そこで、開発されたのが勃起神経を残す「神経温存前立腺全摘出術」。ダビンチという手術用ロボットの登場で、細かい動きが可能になり、神経温存手術の拡大に役立っています。

 しかし、通常の摘出手術よりも難易度が増し、ダビンチ手術でも手術前の勃起力に回復するとは限りません。重いEDになることがあるのが現実ですが、手術前にEDの説明が十分にされていないケースもあるようで、手術を終えて初めてEDになったことに気づく人もいます。

 パートナーとの関係においては、EDは切実な問題です。前立腺がんの治療を受ける前は、術後合併症としてEDがあることを考慮した上で、治療法を選択することが大切でしょう。

 前立腺がんは中高年に多く、命に影響しない穏やかなタイプも珍しくありません。そのタイプなら、血液検査でがんの指標となるPSAをチェックする経過観察にとどめ積極的な治療をしない「監視療法」という選択肢もあるほどです。

 悪性度が高く命に影響を及ぼすタイプであっても、手術ではなく放射線治療なら、神経は確実に温存できます。照射直後は一時的に精液量が減少しますが、治療後しばらくすると回復します。放射線治療による影響は軽微ですが、心配ならバイアグラなどの薬を服用することで状況は改善します。

 膀胱がんや直腸がんなどでも、勃起神経が障害されるケースがありますから、手術を受ける際はEDの可能性についてもしっかりと聞いて、パートナーと十分検討することが大事だと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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