初診の患者さんに私が必ず聞くことのひとつが、両親が糖尿病であるかどうか。父親、母親共に糖尿病である場合は生活習慣の改善だけでは対処しづらいケースが珍しくありません。糖尿病が遺伝するかどうかは、科学的に証明されたわけではないものの、現実には「遺伝する」と言わざるを得ない状況ができあがっています。
それは、遺伝的素因に加えて、生活習慣が親から子供へと受け継がれているから。食の好み、外食の頻度、普段の食事の味付けが濃いめか薄めか、食後、特に夕食後に間食を取る習慣があるか、夜更かしをよくするか、体を動かすことをいとわないタイプか……。
もし、お子さんがいるようであれば、自分のためだけでなく、お子さんの将来の健康のために、糖尿病、高血圧、脂質異常症を発症しにくい食生活を今日から心がけていただきたいと思います。
具体的には、たばこはやめる。お酒は控えめにする。適度な運動を習慣化する。寝る間際に食事をしない・間食を取らない(果物を含む)。これらすべてが必要です。
「親の背中を見て子は育つ」といいますが、たとえばたばこに関して、高崎健康福祉大学(群馬県)で2005年から毎年学生を対象に行ってきたアンケートでは、親が喫煙している学生の喫煙経験率は、男女とも全体の喫煙経験率を上回っていたそうです。
18年の調査では両親ともに喫煙者の男子学生の喫煙経験率は20.5%、女子学生では6.8%。一方、両親がそろって非喫煙者の場合は、それぞれ9.9%、2.2%。つまり、両親が喫煙者の場合は、非喫煙者の場合に比べ、子の喫煙経験率は男子学生で約2倍、女子学生で3倍になることがわかったのです。
また、父親が喫煙者の子の喫煙経験率は、非喫煙の父親に比較し男子学生は約1.5倍、女子学生では2倍、そして喫煙の母親の場合には、男女ともに、子の喫煙経験率が非喫煙の母親に比べておよそ2倍だったとのこと。
親の影響は大きいと、考えられますね。
■週に1回、家族全員で体重計に乗ってみては?
一度に、たばこ、お酒、運動、寝る間際の食事、睡眠の改善に取り組めなければ、ひとつずつでもいい。漠然と始めるより、目標となる数字を設定した方が成功しやすいですので、週に1回、家族全員で体重計に乗るルールを作るのはどうでしょう?
いまから100年ほど前、ハーバード大学の言語学者であり哲学者のジョージ・キングズリー・ジップが「ほとんどの人の場合、努力次第で乗り越えられる些細な困難も、それを目の前にすると引き返してしまう」という言葉を残しています。
人は漠然と頑張るように指示されても、途中であきらめてしまう。体重計に乗るルールで、現在の体重を視覚化すれば、「体重が増えている。今週の何が問題だったのだろう」「これ以上増やさないように、体を動かすようにしよう」「食事量を見直そう」などと考えられます。
家族全員で、というのも肝です。何度もこの欄で触れている通り、ひとりでやるよりみんなでやった方が三日坊主になりにくいです。
お子さんの将来の健康のため、と前述しましたが、今日から生活習慣を改善することは、将来、家族やお子さんへ介護の負担をかけなくすることにもつながります。糖尿病、高血圧、脂質異常症はトリプルで抱えている人が大半です。このトリプルリスクを放置すると、心筋梗塞、脳卒中などを引き起こしやすくなります。
医療技術が進んだ現在、心筋梗塞、脳卒中で死ぬことはほとんどなく、心筋梗塞はその後心不全に、脳卒中はその後認知症になる可能性があります。
認知症となれば、介護。家族へかかる負担は、小さいとはとても言えないでしょう。それを回避できる対策があるのなら、家族のためにも、取り組みたいと思いませんか?