注目される前立腺肥大症の手術「PUL」が保険診療に! 勃起機能維持に期待

50歳以上の男性に多い
50歳以上の男性に多い(C)日刊ゲンダイ

 前立腺肥大症は、50歳以上の男性に多く見られる病気だ。近年注目を集めているのが、外科手術のひとつ、経尿道的前立腺吊り上げ術(PUL)だ。この治療に使われるデバイス(機器)が4月1日に発売され、保険診療で行えるようになった。

 前立腺が肥大し、尿道が圧迫され尿の流れが妨げられるのが前立腺肥大症だ。原因ははっきりわかっていないが、加齢による性ホルモンの環境変化が関係しているといわれている。

 日大板橋病院院長で、泌尿器科学分野主任教授の髙橋悟医師が言う。

「症状が進行した人では、尿がたまっているのに自分で尿を出せない尿閉になってしまう。すると自分で尿道に細いカテーテルを挿入して尿を出したり、カテーテルを尿道に挿入して定期的に交換しなくてはいけないようになります」

 同じく50歳以上で患者数が増える前立腺がんとは異なり、生命に関わる病気ではないが、生活の質(QOL)を下げることは確か。早くに治療を開始することが賢明だ。

「前立腺肥大症は近年、さまざまな薬が登場し、治療が進歩しました。薬が効かず手術が必要な場合でも、内視鏡で行うので低侵襲。疑う症状があり、日常生活に支障をきたすようであれば、泌尿器科を速やかに受診すべき」(髙橋医師)

 前立腺肥大症の主な症状は、残尿感、頻尿、排尿障害など。国際的に使用されている国際前立腺症状スコア(IPSS)がネットなどですぐに見つけられるので、それでチェックするといい。点数が大きいほど重症だ。

 症状が軽症なら経過観察。日常生活に支障が出てくる中等症になると薬物療法になる。「かとう腎・泌尿器科クリニック」の加藤忍院長によれば、患者の2割が経過観察、6割が薬物療法だ。薬物療法で改善効果は見られるが、たいていは生涯にわたって薬剤を服用しなければならない。めまい、脱力、頭痛、性機能障害などの副作用のリスクもある。

■手術直後から急激に症状改善の報告も

 副作用で服薬を継続できない、あるいは薬では効果が不十分といった場合、手術が検討される。いくつか方法があるが、いずれも内視鏡を尿道内に挿入して行う。代表的なのは、肥大した前立腺組織を電気メスで切除するTURP(経尿道的前立腺切除術)だ。レーザー治療もある。

「前立腺肥大症の治療の2割が手術です。手術によって症状は著しく緩和し、切開手術ではないので低侵襲ですが、一方で回復期間は長期に及び、人によっては永久的な性機能障害、失禁、狭窄が生じる。また、術後にカテーテル挿入が必要になる可能性もあります」(加藤院長)

 そこで、冒頭で触れたPULだ。内視鏡を用いてウロリフトインプラントという人工器具を前立腺に4~6カ所留置し、肥大した前立腺組織を持ち上げて固定。尿道が拡張され、症状が改善する。手術時間は20~30分ほど。

 PULについては海外で多数の臨床研究論文発表および臨床データが発表されている。いくつか挙げると、「PUL直後から急激に症状が改善」「TURPなど従来の手術と比べて低侵襲な上、効果の継続は同等」「術後の痛みの回復、患者の満足度は従来手術を有意に上回る」「5年間の追跡調査でPULを受けた80%超の尿閉患者がカテーテル留置不要」など。

 さらに着目すべきは、「PUL後、性機能障害の報告はなかった」(「LIFT Study」論文から)。従来治療では、薬、手術ともに一定の割合で性機能障害が発生する。なお、PULの術後合併症としては、排尿障害、血尿、骨盤痛などだが、いずれも軽症から中等症で、2~4週間で自然に治ることが報告されている。

 加藤院長が言う。

「今までの外科的手術と比べてPULは明らかに障害が少ない。排尿障害がなく、勃起機能などメンタルヘルスを保てる。これまで薬も手術も不適用だった患者さんにも、PULは期待できる」

 現段階では基本的に、従来の手術が適用ではない人が対象だ。

関連記事