がんと向き合い生きていく

いきなり週単位、月単位と言われても…胃がん患者の心の叫び

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 2週間前から、急に足が重くなり、浮腫んで、指で押すとべっこりとへこんで戻りません。右のすねはぴかぴか光り、針で穴を開けたわけでもないのに、皮膚の上に水滴がのっています。

 肝機能と腎機能が悪く、お腹が膨らんできたのは腹水がたまってきたためだそうです。担当医から「黄疸を来たしています。緩和病棟に入りましょう」と言われました。

 動くのが辛くて、入院させてくれるならどこでもいいと思いました。でも、こんなに早く緩和病棟に入るとは思いませんでした。いまは横になっていれば落ち着いて、こうしておれます。

 死ぬのはもっと、もっと先かと思っていたので、何にも準備が出来ていません。準備と言っても、考えてみると何するわけでもありません。私は独り身で、その点、思い残すことも何もない気がしています。もし、あったとすれば、憧れていたヨーロッパ旅行ですが、今はコロナ禍で元気だったとしても行けません。会社は定年を待たずに退職しています。ですから仕事の申し送りもありません。私のマンションの部屋は散らかっていますが、弟が一人いますので、わずかな貯金も好きなようにしてくれると思っています。以前、一緒に旅行した友人がいますが、胃がんになってからは連絡していません。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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