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【B型肝炎】がん発生抑止のために行う2つの抗ウイルス治療

写真はイメージ
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 B型肝炎ウイルス(HBV)は、全世界で約3億5000万人が感染していると言われ、そのうち日本では約130万~150万人(100人に1人)が感染していると推定されています。現在も年間約1万人の新規感染者がいるといわれています。

 HBVへの感染は、HBVが含まれている血液や体液が体内に入ることによって起こります。成人ではHBVに感染したパートナーとの性交渉によるものが一般的です。ほかに輸血や注射針など血液を介しても感染します。

 成人は免疫機能が確立しているため、HBVに感染しても多くの場合は自然に治癒します。一部の人では急性肝炎を発症し、一過性の感染を経て治癒します。どちらの場合もウイルスは体から排除されていて、HBVに対する免疫を獲得します。しかし、免疫機能が未熟な乳幼児、免疫抑制剤を使用しているなどで免疫が低下している人がHBVに感染すると、ウイルスが排除されずウイルスを体内に保有した状態(持続感染)になるケースがあります。

 このように、ウイルスを体内に保有している人を「キャリアー」と呼びます。キャリアーの約90%は一般的に無症候性キャリアーのまま生涯を終えます。しかし、約10%の人は慢性肝炎を発症し、肝硬変、肝細胞がんへと進展する危険性があるとされています。

 キャリアーに対しては、肝細胞がん発生の抑止などを目的として抗ウイルス治療が行われる場合があります。主な治療法は「インターフェロン療法」と「核酸アナログ製剤の内服治療」です。

 インターフェロン療法は、人工的に生産したインターフェロンを注射で補う治療法です。インターフェロンはウイルスに感染した際に体を守るために体内で作られるタンパク質の一種で、ウイルスを排除したり増殖を抑える働きがあります。

 インターフェロン療法は治療期間が24~48週間と限定されており、催奇形性もないため若年者で比較的使用しやすいといわれています。しかし、治療期間中は週1回の通院が必要で、治療効果が得られる症例も20~40%にとどまっています。

 一方の核酸アナログ製剤は、ウイルスの増殖を直接阻害する内服薬です。治療が簡便で、自然治癒の可能性が低い高齢者においてもほとんどの症例で抗ウイルス作用を発揮し、肝炎を沈静化することが可能とされています。ただし、投与中止による再燃率が高いため、長期間の継続的治療が必要となってしまいます。

 一概にどちらの治療が優れているとは言いづらく、その人に合った治療を選択することが大切なのです。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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