血液型と病気

腸内細菌叢も5パターンある 血液型の研究は「病気」から「健康」へ

写真はイメージ
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 腸内細菌叢は、「生活習慣(食事・運動・睡眠・ストレスなど)」と「遺伝的素因」によって決まると考えられています。遺伝的素因のひとつが、腸の粘膜細胞の組織血液型抗原です。これには分泌型と非分泌型があり、前回紹介したように、細菌の構成に違いが出ることが分かってきました。では、分泌型の中ではどうなっているのでしょうか。ちなみに分泌型の人の組織血液型抗原は、赤血球の血液型抗原と同じです。

 2017年、アメリカの研究グループが、健常者33人から採取した糞便を調べた結果を論文として発表しました。それによると、とくにA型でブラウティア属の細菌が少なく、ペプトストレプトコッカス属、クロストリジウム属、ツリシバクター属などが多かったそうです。

 まったく聞きなれない名前ですが、ツリシバクターは肥満、歯周病、痛風などの進行と関係していると言われており、マウスを使った研究が進められています。またクロストリジウム属の中には、ウェルシュ菌という、普段はおとなしいのですが、人体の抵抗力が弱ってくると食中毒を起こすものが含まれていますし、前回紹介したディフィシル菌もこのグループに入ります。

 一方、食物繊維のセルロースを分解して消化を助けたり、整腸作用を促したりする菌(実際に整腸薬に使われている)も含まれています。つまりクロストリジウム属は善玉・悪玉を取り交ぜたグループで、それが分泌型のA型の腸内に多くすみついているというのです。

 この結果を受けて、ドイツの研究チームが9000人の糞便を使った大規模な研究を行いました。論文は「ネイチャー・ジェネティクス」という世界トップレベルの学術雑誌に掲載されています。この研究で、組織血液型抗原が、細菌の腸壁への接着の手がかりになっているだけでなく、実は彼らの重要な餌にもなっていることが分かりました。とくにA抗原とB抗原が細菌たちに好まれるようで、O型と非O型では細菌叢の構成に違いがあることも明らかになりました。

 組織血液型抗原に関して、腸内は5種類(非分泌型、分泌型A/B/AB/O型)に分かれているわけですが、腸内細菌叢もそれに応じて5パターンに分かれているのかもしれない──そういうことが解明されつつあるのです。長年の「血液型と病気」の研究が、「血液型と健康」の研究に変わる節目にきていると言っていいでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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