コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

「超小型陽子線治療装置」開発のカギは回転しないガントリー

(ビードットメディカルHP)
(ビードットメディカルHP)

 がんの標準治療のひとつである放射線治療は、一般的なX線治療と粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療、ホウ素中性子捕捉療法)に分けられる。粒子線治療はX線治療と比べて治療効果が高く副作用が少ないとされるが、設備に大型の加速器が必要になるため、導入する医療機関はごく一部に限られている。

 そんな粒子線治療の中でも「超小型陽子線治療装置」(以下、超小型装置)を開発して普及させようとしているのが、2017年に創業した放射線医学総合研究所(放医研)発のベンチャー企業「ビードットメディカル」(東京都江戸川区)だ。どれくらいの小型化に成功したのか。同社の古川卓司社長が言う。

「従来の陽子線治療装置は重量が約200トン以上の巨大な装置で、治療室1室に対し、操作室を含めテニスコート1面分の設置スペースが必要です。超小型装置は、従来装置より高さを3分の1、重さを約10分の1まで小型化することに成功しました。一般的なX線治療装置を配置しているスペースのある医療機関であれば導入が可能です」

 古川社長は、もともとは放医研の研究員。医療機器メーカーなどに治療装置のコンサルティングを行う中で、陽子線治療装置を小型化できると確信したという。

 これまで陽子線の分野では装置の小型化競争が繰り広げられてきたが、ほとんどが従来の装置をそのまま小型化するケースが多かった。装置は筒状の大きな機器を360度回転させて、さまざまな方向から陽子線を照射する「回転ガントリー」という技術を採用している。そのために装置が大型になってしまうのだ。

「超小型装置は、巨大なガントリーを回転させずにビームの角度を変える画期的な技術を使用しています。ガントリーを360度回転させる代わりに、電磁石を使って陽子線を曲げることで多方向からの集中照射が可能なのです。また、治療台が水平に180度、ガントリーが上下方向・円弧上に140度動くことで、複雑な構造を持つ病巣に対して周囲正常組織へのダメージを抑えつつ集中的な照射を可能にしています」

 超小型装置は、今年中には薬事承認される見込み。導入コストは従来の50億円ほどから、約20億円に抑えられるので、一般病院への普及が見込まれる。陽子線治療の適応疾患は今年拡大され、肝細胞がん、局所進行膵(すい)がんなど、8種類のがんが保険適用になっている。

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