コロナ死亡数はどうやって決まるのか? 医療情報学教授が特別寄稿

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 コロナ禍が始まってから2年半、日本では死者が3万人に達しようとしており、世界全体では約630万人が亡くなったという。しかし毎日発表される死亡数に対して、本当はもっと少ないのではないか、いやもっと多いのではないか、といった疑問や疑念が絶えない。

 実際、政府の新型コロナ基本的対処方針分科会の議事録(令和4年3月17日)を読むと、何人かの委員から、とくに今年に入ってからの死亡数に対する疑問の声が上がっている。過剰に見積もっているという委員もいれば、過少評価ではないかという委員もいる。政府から選ばれた専門家ですらそうなのだから、マスコミによって連日伝えられる数字に疑問を感じる国民が大勢いたとしても、まったく不思議ではない。まして、国ごとにコロナ死の定義が異なるのだから、世界全体の死亡数は、あまり信用しないほうがいいかもしれない。

 イギリスなどは、PCR検査で感染が確認されてから「28日以内」に亡くなった人をコロナ死として集計している。

 アメリカでも、多くの州が日数で区切った死亡を、コロナ死と判定している。ただし「30日以内」とする州が多い。

 またマサチューセッツ州では、昨年まで60日以内としていたが、連邦政府などの要請もあり今年から30日に短縮し、過去に遡って集計し直した。その結果、死亡数が約3700人も減ったという。

 一方、イギリスでは日数のほかに、医師の死亡診断書に基づく集計も行っている。

 死亡診断書には、死亡にもっとも関与した疾病(主たる死因)と、死亡に大きくは関与していないが、健康状態に影響を与えた基礎疾患など(関連死因)が記載される。昨年末時点で、イングランドとウェールズのコロナ死は約14万人だった。これは、コロナが主たる死因とされた人数である。

 ところが死亡診断書の中には、死因としてコロナだけが書かれており、関連死因がないものが約1万7000件あった。それを誤解あるいは曲解して、「本当はコロナで亡くなったのは1万7000人に過ぎなかった」とSNSに投稿したグループがあり、それが瞬く間にネット上に拡散してしまった。

 イギリス政府はコロナの死者数を大幅に水増ししていると、大炎上したのである。しかも同様の書き込みが、フランスやオランダにも飛び火するなど、ちょっとした騒動に発展した。

■日本での2020年の確定数は3466人

 日本では、コロナが死亡に関与したと考えられる場合(具体的にはPCR検査でコロナ陽性が確認された場合)、それが主たる死因であるかどうかにかかわらず、コロナ死として届け出ることになっている。簡単に言えば、PCR検査で陽性だったら全員コロナ死だ。かなり乱暴だが、厚生労働省としては、これはあくまでも概数であって、あとで死亡診断書をもとに死因を確定するとしている。現時点で確定しているのは2020年の数字である。ところが人口動態調査(2020年)によれば、コロナ死の概数も確定数も3466人となっている。本当に死亡診断書を精査したのだろうか。

 ちなみに私は以前、ある年のあるがんの死亡数が、例年の10倍以上になっていることを見つけ、厚生労働省に「間違いではないか」と問い合わせたことがあった。

 しかし厚生労働省の担当者は、「それは確定値であるから、いまさら確認も修正もしない。その数字をそのまま使うか、使わないかはそちらの自由」と言われ、まったく取り合ってもらえなかった。

 政府統計の確定値とは、そういうものである。新型コロナの場合は、前例がないから、この3466人が妥当かどうかを判断する材料が乏しい。しかし確定値として出た以上、2020年における日本のコロナ死はこれで決まりである。これが公式の数字として、永遠に残ることになる。参考までに、この年のウイルス性肝炎による死亡が2201人、結核が1909人、交通事故死は3718人などとなっている。

 ただし「たとえ交通事故で亡くなっても、コロナ陽性だったらコロナ死としてカウントされる」と思っている人が、日本のみならず世界中に大勢いるが、これは明らかに誤解である。世界保健機関(WHO)も各国政府も、事故や殺人など外的要因による死はコロナ死に含めない、という方針をはっきりと示している。もちろん日本も同様なので、この点に限れば安心してよい。

(永田宏/長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授)

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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