AIを活用したシステム「AI-PHARMA」が最適なクスリ情報を提供 導入施設が増加中

アイファルマの横断検索画面
アイファルマの横断検索画面

 近年、医療の分野でもAI(人工知能)を活用したシステムが続々と登場している。画像やデータの診断サポート、身体情報のモニタリング、投薬や手術といった治療に応用するシステムの開発も進んでいる。そんな中、自然言語処理AIを活用した医薬品情報管理システム「AI-PHARMA(アイファルマ)」を導入する医療機関や薬局が着実に増えている。開発を主導した岡山大学病院・薬剤部・人工知能応用メディカルイノベーション創造部門教授の神崎浩孝氏に詳しく聞いた。

「薬剤師は、医師や看護師、同僚の薬剤師からクスリに関する質問が頻繁に寄せられます。その際、状況に応じて迅速に最適な回答が求められるのですが、医薬品情報は膨大で、問い合わせがあったクスリについて調べ、確認する作業が必要になってきます。ただ、クスリには一般名(成分名)と製品名(商品名)があるうえに現場での呼び方がいくつもあり、さらに、クスリの使用法についての言い回しや表現も人によってさまざまです。そのため、パソコンで医薬品のデータベースを検索する際に的確な単語を組み合わせることに苦労して、目的の情報になかなかたどりつけないケースがありました」

 アイファルマは、そうした作業を効率化するためのシステムとして、岡山大学病院薬剤部と木村情報技術の協力で開発された。

 同病院で蓄積してきた約8000件に上る「医薬品Q&A」を最新の情報にアップデートして整理したものや、ほかの施設が公開している医薬品情報や事例などをAIに学習させ、パソコンやタブレットなどの端末からインターネットでアイファルマの横断検索ページにアクセスして質問を打ち込むと、最適な回答が提供される。

「アイファルマには、いくつもあるクスリの呼称や、臨床現場で使われている同じ意味の表現を同義語として学習させています。ですから、正確なキーワードでなくても、システムが自然言語(文章)を認識して意図を読み取り、医師からの言葉をそのまま入力しても迅速に最適な回答を探し出してくれます。また、関連度の高い回答を提示することもできます」

■施設ごとに申し込み無料で利用できる

 このような情報を蓄積し、検索によって引き出せるといった機能に加え、2022年になってからさらにアップデートが重ねられている。医療現場で生じた疑問や質問を投げかけると、登録している多くの医療者メンバーが回答を寄せることができる「掲示板機能」や、アイファルマ上で登録している所属グループ内やそれ以外のコミュニティーに業務連絡や情報を発信できる「一括お知らせ機能」などが追加された。

 アイファルマは、施設ごとに参画を申し込むとログインIDが発行され、無料で利用できる。

 現在、岡山大学病院をはじめ、東北大学病院、杏林大学医学部付属病院、東京女子医科大学病院など、全国で200を超える医療機関や薬局が導入しているという。

「アイファルマは医療従事者向けのシステムで、患者さんには公開されませんが、最終的には患者さんにとってプラスになります。患者さんの多くは、複数の基礎疾患や合併症を抱えているなど背景が複雑です。そのため、医療者が個々の患者さんに合わせて最適にクスリを使おうとしても、公開されている添付文書などの情報だけでは不十分な場合が少なくありません。そうした情報の不足は、自身の経験または経験者の知識によって補っていますが、経験や知識はテキスト化されていないケースがほとんどで、経験者が身近にいなければ聞くことができません。それがアイファルマにはそうした経験が蓄積され、その情報を共有できるので、個々の患者さんに合わせた最適なクスリの提供につながります」

 今後、医療者個人単位での申し込みも可能になる予定で、登録者数3万人を目指しているという。

 医療現場ではますますAIの活用が進みそうだ。

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