読者の皆さんは、どう思われたでしょうか。膀胱がんを公表している、キャスター・小倉智昭さん(74)のことです。昨年夏に肺への転移が見つかり、抗がん剤などの治療で活動を休止していましたが、このほどラジオ番組に出演。膀胱全摘後に肺転移が見つかったことを「運がよかった」と語り、話題を集めています。
報道によると、その後の“小倉節”はこんな具合だったようです。
「普通は膀胱の全摘手術の前に肺に転移していたら、全摘手術はできないんですって」
ところが、続きがあります。
「(全摘手術前から画像検査で写っていた肺の結節は)ずっとそこにあった小さなものだったから、がんじゃないだろうということで、一応要観察みたいな感じ」
それが手術から3年を経て大きくなり、病理検査を受けたところ、膀胱がんと同じ組織が見つかり、転移との診断で、抗がん剤治療を受けたという流れです。
この話だと、全摘前から肺の転移があった可能性もあります。そうすると、全摘できない、つまり根治できなかったが、小倉さんは先に全摘=根治できたからラッキーだと表現したのでしょう。その気持ちは分かりますし、実際、診断時にすでに転移がある場合は手術できないこともありますが、すべてがそうではありません。
膀胱がんは、内側の表面を覆う尿路上皮という粘膜から発生。少しずつ粘膜下層、筋層、外膜、膀胱外へと浸潤していきます。小倉さんは筋層に達していたと報じられました。
粘膜にとどまっていると転移は少ないですが、ここまで到達するとがん細胞が血流に乗って転移しやすいことが分かっています。小倉さんは初期治療で全摘ではなく、内視鏡切除を選択。それで取り残しがあり、肺転移につながったと思われます。
膀胱がんの転移には、まずゲムシタビンとシスプラチンという抗がん剤を併用するのが一般的。それで50%は縮小し、10%は消失するため、このようなケースには全摘手術が行われることもあるのです。
ほかのがんでも、その可能性はあります。特に大腸がんは、転移があっても、原発の大腸への手術がよく行われます。便の通り道を確保するためです。大腸がんは、肝臓や肺への転移に対しても数が少なければ手術します。
前立腺がんの転移例では、ホルモン治療を行ってマーカーのPSAが低下し、転移が縮小するなど効果が認められると、大本の前立腺がんに放射線治療を行うことがあります。5個以内の少数転移には、定位放射線治療も保険適用です。
転移がんへの考え方も医療の進歩で変わっています。以前なら、転移がんだと抗がん剤治療による延命がほとんどでしたが、今は必ずしもそうではないのです。