Dr.中川 がんサバイバーの知恵

小倉智昭さんは「運が良かった」と告白 がんの転移があっても原発を治療できるケース

小倉智昭さん(C)日刊ゲンダイ

 この話だと、全摘前から肺の転移があった可能性もあります。そうすると、全摘できない、つまり根治できなかったが、小倉さんは先に全摘=根治できたからラッキーだと表現したのでしょう。その気持ちは分かりますし、実際、診断時にすでに転移がある場合は手術できないこともありますが、すべてがそうではありません。

 膀胱がんは、内側の表面を覆う尿路上皮という粘膜から発生。少しずつ粘膜下層、筋層、外膜、膀胱外へと浸潤していきます。小倉さんは筋層に達していたと報じられました。

 粘膜にとどまっていると転移は少ないですが、ここまで到達するとがん細胞が血流に乗って転移しやすいことが分かっています。小倉さんは初期治療で全摘ではなく、内視鏡切除を選択。それで取り残しがあり、肺転移につながったと思われます。

 膀胱がんの転移には、まずゲムシタビンとシスプラチンという抗がん剤を併用するのが一般的。それで50%は縮小し、10%は消失するため、このようなケースには全摘手術が行われることもあるのです。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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