白内障手術後に眼鏡をかけたくなければ「多焦点レンズ」を選ぶ

写真はイメージ
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 白内障は、カメラのレンズに相当する水晶体が濁り、視力が低下する病気だ。治療は、水晶体を取り除き、眼内レンズを入れる手術しかない。

 白内障は、見え方に異常が生じる病気だ。放置すれば視力が低下し、失明に至る。

 この白内障、「見え方」以外にもいくつもの弊害がある。「転倒や股関節骨折を招き、寝たきりリスクを上げる」「うつ病や不安症の発症率が高くなる」「重度の白内障を持つドライバーは過失事故の率が5年間で2.5倍高くなる」などだ。また、2021年に米医師会の内科専門誌に掲載された論文では、白内障手術を受けている人はそうでない人より認知症のリスクが3割低く、効果は5年以上続くという研究結果が紹介されている。

 そのため白内障治療の最前線では「生活に支障を感じたら手術」。白内障治療の第一人者である東京歯科大学水道橋病院眼科のビッセン宮島弘子特任教授が言う。

「濁った水晶体を取り換える手術は角膜を切開して行いますが、非常に安全性が高い。さらに、遠くから手元まで自然に見える多焦点眼内レンズが登場し、それに取り換えれば、老眼鏡を含む眼鏡がほぼ不要になります。欧米では、見え方に不具合を感じていない段階で手術をする人もいます」

 眼内レンズは、2つのタイプに大別できる。遠く、または近くの1カ所に焦点が合う「単焦点眼内レンズ(以下、単焦点)」と、焦点が2カ所以上の「多焦点眼内レンズ(同、多焦点)」だ。

 近年、注目を集めているのは、多焦点の中でも、遠方・中間・近方の3カ所に焦点が合うもの。日本で初めて発売されたのが19年で、今年4月、新たな3焦点の多焦点が発売された。

■値段重視なら単焦点レンズ

 焦点の数以外に単焦点と多焦点の違いをざっと挙げると、単焦点では眼鏡が必要で保険適用。多焦点(3焦点)は眼鏡がほぼ不要。一部保険適用で受けられる選定療養の対象で、全額自己負担よりは安い。白内障手術の症例では、単焦点が9割、多焦点は1割程度。

「多焦点の割合が低い理由として、単焦点より手術費がかかることに加え、一般の方の認知度が低く、特有の見え方への不安があることも大きいと思います」(ビッセン宮島特任教授=以下同)

「特有の見え方」とは、「コントラスト感度の低下」と「ハロー・グレア現象」だ。明暗の対比を見分けるのがコントラスト感度で、ハロー・グレア現象は夜間のまぶしさ。いずれも、単焦点では起こりづらい。

「コントラスト感度、ハロー・グレア現象ともに、術後は多くの人が感じます。しかし脳には順応性があり、時間とともに気にならなくなる人が大半です」

 4月に発売された多焦点眼内レンズに取り換えた患者74人を対象に、ビッセン宮島特任教授が行った調査では、手術後5メートルから40センチまで平均1.0以上の視力が保たれ、86%以上は眼鏡不要。見え方に「とても満足/満足」と答えた人の割合は、遠方が97%、中間が100%、近方が81%。コントラスト感度は、全周波数領域で正常範囲内で、ハロー・グレア現象は90%以上が日常生活に問題なしとの回答だった。

「費用はかかっても眼鏡のない生活をしたい人には、多焦点の方が向いているでしょう。一方、眼鏡に全く違和感を覚えていない人なら、単焦点で十分かもしれません」

 ただし、どちらにするにしても、双方のメリット、デメリットを客観的に、正確に説明してくれる眼科医を選ぶべきだ。前述の「特有の見え方」にしても、「コントラスト感度やハロー・グレア現象がありますが、慣れていく人が多いですよ」という説明か、「一部とはいえ、まぶしくて大変になる人がいます」という説明かで、何を選ぶかが変わってくるだろう。「安いから」と単焦点を入れ、その後に「眼鏡が不要になる眼内レンズがあるなんて知らなかった」と後悔する人もいる。

 なお、緑内障などほかの目の病気がある人は、現状では多焦点ではなく単焦点となる。

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