がんと向き合い生きていく

妻には言えても医師には言えない…がん患者の心中

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 病院に着くと、予定されている診察の1時間前には採血とCT検査が終わりました。一息ついて、診察室前の待合のイスに座って待ちました。ここも混み合っています。

 壁に設置されたテレビでは、ある病院でコロナのクラスターが発生したというニュースが流れていました。感染しても無症状の人が多いといわれているので、待っているまわりの患者たちにも安心はできません。

 テレビに飽きると、スマホに保存してある2歳の孫の動画を見ます。正月から会えていませんが、また大きくなっていて、Kさんにとってこれが一番の希望の星です。

 診察予定時間から1時間過ぎても、なかなか呼び出されません。心の中は不安でいっぱいです。

「CT検査の結果が悪かったらどうしよう。あの背中の痛みはなんだったのだろうか? 入院と言われたらどうしよう。病室のベッドには入りたくないな。あの痛みがなんでもなければいいが……。もう早くここから逃げたい。とにかく病気から逃げたい。良い先生だけれど、先生からも逃げたい。病気は俺から離れてくれ! 嫌なんだ。もう、どうだっていいから逃げたい……。そばに座っている患者たちは次々と先に呼び出されていく……もう、検査の結果は出ているだろうに、呼び出されるのが遅いのは、結果が悪かったからじゃないか……」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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