手術は日帰りでここまでできる

腹腔鏡手術の登場と麻酔薬の進歩で盲腸・脱腸手術が入院不要に

写真はイメージ
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 今回は、そもそもこれまでの手術と「日帰り手術」のなにが違うのかということを改めてお伝えしたいと思います。

 現在日本では、盲腸や鼠径ヘルニア(脱腸)の手術を受けた場合の平均在院日数は5日前後とされています。その一般的な内容は、「手術の前日に患者さんが病棟の看護師などから説明を受ける→その内容が手術室の看護師に申し送りされる→翌日手術→術後、患者さんは病棟に帰り2~3日療養」といったもの。

 手術を受けようと思ったなら、仕事を持っている方は休暇を取り仕事の引き継ぎを行い、ご家庭の主婦の方は家事をほかの家族に託すなど、物心両面にわたったあらゆる準備をし、それ相当の覚悟を持って臨まなければいけません。

 一方、日帰り手術では、当院の例で言いますと、来院後30分ほどで手術室に入り、麻酔にかかっているということになります。

 これを可能にした背景として最も大きいのは、ひとつは「腹腔鏡手術」という新しい技術の登場。そしてもうひとつは、麻酔薬の進歩で以前よりも覚め方が早くなり、さらには麻酔科医の技術の向上があります。腹腔鏡手術については、また別の回で詳しく紹介したいと考えています。

 ただ、日帰り手術を成功させるためには、患者さん側の協力が不可欠。手術前日に入院し、病院側が患者さんを管理する通常の手術とは異なります。特に手術当日の、患者さんによる食事管理は必須となります。

 基本的に、その日の朝は水とお茶以外の摂取は厳禁。これは、手術中や術後の嘔吐反射を防ぐため。もし、「朝、コーヒーを飲んでしまいました」「ご飯はダメっていわれたから、あんぱんを食べてきました」なんていう場合は、その日の手術を取りやめることもあります。

 中には、朝うっかり食べてきてしまい、しかし私たちの問診では「食べていません」と答えて施術を受ける方もいますが、その場合は麻酔が覚めてから、嘔吐反応を起こし誤飲し、肺炎の心配があるからと、経過観察のために入院という本末転倒なことになるケースもあります。

 腹腔鏡手術の最大のメリットは、キズが小さいため痛みも少なく傷の治りが早いということ。しかし、メリットを最大限生かすも殺すも、患者さん次第。治療への理解、そして自分の手術に主体的に参加するという意識が、入院による手術以上に欠かせないのです。

大橋直樹

大橋直樹

日本外科学会認定外科専門医、全日本病院協会認定臨床研修指導医。東京外科クリニックグループでの日帰り手術の件数は2022年4月末日時点で3101件。

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