アルコールと関係ない「脂肪肝」は心血管疾患リスクもアップさせる

肥満などの生活習慣病は心血管疾患のリスクでもある
肥満などの生活習慣病は心血管疾患のリスクでもある

 飲酒が関係しない脂肪肝「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」は、進行して悪化すると肝硬変や肝臓がんにつながる危険がある。しかもそれだけではなく、心血管疾患の大きなリスク因子にもなるという。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に詳しく聞いた。

 脂肪肝とは、肝臓の細胞の5%以上に中性脂肪がたまった病態を指す。飲酒を原因とする「アルコール性脂肪肝」と、飲酒を原因としない「NAFLD」がある。NAFLDの80~90%は脂肪肝のまま進行しない「NAFL(非アルコール性脂肪肝)」だが、10~20%は少しずつ悪化して肝硬変や肝臓がんに進行するケースがある「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」に該当する。アルコール性脂肪肝はもちろん、NAFLD/NASHをそのまま放置していると命に関わる病気につながる危険があるのだ。

 さらに、NAFLD/NASHは心血管疾患とも大きく関係しているという。

「国内外の研究で、NAFLDの人は、一般の人に比べて心血管疾患を起こすリスクがおよそ2倍多くなることが多数報告されています。NAFLDが心血管疾患とどのように関係しているかについて詳細なメカニズムはわかっていませんが、NAFLDは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病を背景に生じます。そうした生活習慣病は、心血管疾患のリスク因子でもあるので、両者には大きな相関関係があると考えられています。また、NAFLDでは脂肪が蓄積した肝臓や脂肪細胞から炎症性サイトカインが放出され、炎症や血栓形成が生じて動脈硬化や血管内皮の機能障害を引き起こすことも報告されています。さらにNAFLDが進行して起こる肝臓の線維化は、肝硬変だけでなく、心臓の拡張不全や心筋のグルコース取り込み障害とも大きく関係しているため、心血管疾患の大きなリスク因子になるとみられています」

 こうした深刻な重大病につながる事態を防ぐためには、NAFLDの段階で手を打つことが重要になる。ただ、そのためには一般的な健康診断では難しいという。

「NAFLDは、エコーやCTなどの画像検査や血液検査で脂肪肝が認められ、ウイルス感染やほかの肝臓病ではないことが確認されれば診断がつきます。一般的な健康診断で行われるAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPの数値を測定する肝機能検査だけでははっきりわからないのです。また、NAFLDだった場合、それがNAFLなのかNASHなのかは、肝臓の組織を調べる肝生検や、肝臓の硬さと肝臓組織内の脂肪量を測定するフィブロスキャン検査で鑑別するしかありません。ですから、まずは人間ドックなどでしっかり検査を受けて、NAFLDかどうかをチェックし、NAFLDであればその段階で手を打つのが望ましい」

■合剤のポリピルが有効との報告

 NAFLD/NASHの治療では、原因となる生活習慣病の治療が欠かせない。

 食生活の改善や定期的な運動による肥満のコントロールをはじめ、血糖、脂質、血圧の管理が重要になる。

「NAFLD/NASHでは、そうした生活習慣病に対する薬物治療に加え、心血管疾患の評価と治療も大切です。近年、NAFLD/NASHに対し、アスピリン(抗血小板薬)・降圧薬・脂質低下薬の合剤である『ポリピル』による治療効果が注目されていて、今年1月には『ポリピルの使用はNAFLD/NASHにおいて心血管イベントの発症を抑制する』というイランの研究が、権威ある医学誌『ヨーロピアンハートジャーナル』のオンライン版に掲載されました」

 NAFLD/NASHの人を、アスピリン(抗血小板薬)・アトルバスタチン(コレステロール低下薬)・ヒドロクロロチアジド(降圧利尿薬)・バルサルタン(降圧薬)を含有するポリピルを服用する群(787人)と、経過観察のみのコントロール群(721人)に分けて解析したところ、主要心血管イベント(心筋梗塞、心不全、脳卒中など)の発生は、コントロール群が11.9%だったのに対し、ポリピル群では8.0%と有意に少なかった。

 また、非致死的な心血管疾患、致死的な心血管疾患、全死亡のリスクもポリピル群で低下していた。

「診断の基準や病態、人種や体格に違いがあるため、研究結果が日本でそのまま当てはまるとはいえませんが、ポリピルによる血糖、脂質、血圧のコントロールがNAFLD/NASHの治療と心血管疾患の予防において有効であることは示されたといえます」

 こうした治療により早い段階でNAFLD/NASHに対処するためにも、まずは人間ドックなどの検査を受けたい。

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