高齢者の正しいクスリとの付き合い方

クスリの一包化が「アドヒアランス」を妨げる一因になる

写真はイメージ
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「コンプライアンス」という言葉をご存じでしょうか? 直訳すると「法令順守」になりますが、クスリの世界では「処方通りにクスリを服用・使用すること」という意味で用いられます。

 前回、クスリが増えやすい人の特徴として、処方された薬をきちんと服用(使用)していないケースが多いとお話ししました。こうした状態を「ノンコンプライアンス」といい、これが原因で入院となる場合もあります。

 ある疾患の治療のため、新しくクスリを追加することを目的として入院となった高齢の患者さんがいました。入院時のクスリの内容を確認したところ、その症例のクスリは、朝・昼・夕食後そして寝る前に服用するクスリが1回分ずつ一つにまとめられている、いわゆる一包化されている状態だったのですが、朝と昼の分の残数が異常に多いことに気付きました。そこで、主治医に対して「ノンコンプライアンスが原因で疾患の症状が悪化している可能性がある」と伝え、新しくクスリを追加する前にまずは今処方されているクスリをきちんと服用して経過をみることになりました。

 すると、症状はみるみる改善していき、むしろクスリが効き過ぎている状態になってしまったため、最終的にはクスリを減らして退院となりました。入院時、その症例はたくさんの種類のクスリが処方されていました。おそらく、その患者さんはノンコンプライアンスが日常化していたことで想定されるクスリの効果が表れず、どんどんクスリが追加されていった結果だったのでしょう。

 ノンコンプライアンスを防ぐコツの1つとして、「クスリが処方された意図、治療方針を患者が理解・納得したうえで、しっかり服用(使用)すること」が挙げられます。これを「アドヒアランス」といいます。コンプライアンスが受け身の意味合いが強いのに対し、アドヒアランスは能動的な意味合いが強い言葉になります。

 高齢者の中には、さまざまな理由で多くの種類のクスリが処方されているケースがあります。そのような場合、服用しやすいようにクスリが一包化されることが多いのですが、実はこれがアドヒアランスの妨げになることもあります。

 クスリが一包化されると、一つ一つの錠剤がどういったクスリなのかわかりにくくなります。そうなると、クスリを服用するという行為自体が受け身になるだけでなく、処方意図が理解できず、クスリの服用し忘れ、つまりノンコンプライアンスにつながっていくのです。

 こういった状況を防ぐために、クスリには効果や副作用が記載された説明シートが付いてきます。説明シートは毎回付いてくるので、読んでいないという方もいま一度目を通し、ご自身が使っているクスリの処方意図、治療方針を再確認してみてください。それがアドヒアランスの第一歩となります。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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