がんと間違われやすい「IgG4関連疾患」って何だ? 国際的にも注目

腫瘍があってもがんではなくIgG4関連疾患かもしれない
腫瘍があってもがんではなくIgG4関連疾患かもしれない(C)日刊ゲンダイ

 腫瘍がある、がんかもしれない……。そう言われたとき、念頭に置いておきたいのが、がんと間違われやすい「IgG4関連疾患」だ。都立駒込病院院長の神澤輝実医師が2003年にこの疾患の概念を提唱し、国際的にも注目されている。神澤医師に話を聞いた。

 もともとは膵臓の病気として見つかった。

「膵臓に腫瘍ができる『腫瘤形成性膵炎』は、膵臓がんとして切断されることが一般的でした。1991年に当院病理科の医師が『がんではなく、特殊な膵炎』として論文発表しました」

 95年、東京女子医大が「自己免疫性膵炎」という概念を提唱。2001年に信州大学が免疫タンパク質の一種「IgG4」との関係を発見し、03年には神澤医師らがIgG4が関連する現象は全身の臓器で見られることを突き止めた。

 IgG4関連疾患では、IgG4を作る細胞やリンパ球が異常に増えて炎症が生じ、全身の臓器に同時期に、または時間差で腫瘤ができる。よくできるのは膵臓、胆管、涙腺、唾液腺、リンパ節、腎臓。腫瘤ができる臓器によって症状が異なる。

「膵臓に腫瘤ができれば黄疸や腹痛、糖尿病の悪化などを招き、涙腺に腫瘍ができればまぶたが腫れます。腎臓では、腎機能低下のリスクを高めます。膵臓、または涙腺・唾液腺に腫瘤ができる患者さんが最も多く、全体の8割を占めます」

 悪性腫瘍であるがんと異なり、IgG4関連疾患では腫瘤自体は良性だが、腫瘤の肥大化や炎症による臓器の閉塞・圧迫、機能不全などが引き起こされ、重篤な合併症を伴うことがある。

 そのため腫瘤が見つかれば、悪性(がん)か良性か、良性であればIgG4関連疾患かどうかを鑑別診断し、適切な治療を行わなければならない。

■手術の前にセカンドオピニオンを

 IgG4関連疾患については、9割以上が血液中のIgG4値の上昇が見られる。また、19年には国際的な診断基準が作成されている。

 診断に至る流れとしては、不調が生じた臓器の診療科を受診(まぶたの腫れなら眼科、血糖値の上昇なら内科など)→画像診断で腫瘤発見→生検などがんの検査でがんが否定→IgG4を調べると値が高い→IgG4関連疾患の専門医へ紹介、が一般的だ。

「しかし問題なのは、腫瘤イコールがんとみなして、すぐに手術を行うケースがあることです」

 IgG4関連疾患の腫瘤はかなり大きくなってから発見されるので、もしそれががんなら、いつ転移してもおかしくない状態だ。とにかく速やかに腫瘤を切除、と考える医師がいるわけなのだが、腫瘤がIgG4関連疾患なら過剰医療になる上、そもそものIgG4関連疾患の治療が行われていないので、再び腫瘤ができる可能性がある。

「腫瘤があればIgG4関連疾患かもしれないと考え、検査をすることが医師に求められます」

 医師の間での認知度が高まることを願うばかりだが、一方で、私たちが知っておくべきことが次の3つ。該当するなら、がんの治療に進む前に、セカンドオピニオンを受けることをお勧めする。

【がん診断に用いる腫瘍マーカーが高くない】

「がんと診断されたが、腫瘍マーカーが高くない。あるいは、生検などでがん細胞が出てこない場合、がんでないかもしれません」

【膵臓がんの典型的な画像と異なる】

「IgG4関連疾患は膵臓で見られることが多く、膵臓がんとの誤診もあります。医師が画像の説明のときに『典型的な膵臓がんの画像とはちょっと違う』といった内容の発言をしたら、やや疑わしい」

【臓器の腫瘤に加え、まぶたの腫れがある】

「まぶたの腫れは涙腺の腫瘤によるものかもしれない。念のためIgG4関連疾患を調べた方がいいでしょう」

 IgG4関連疾患の治療はステロイド投与。ほぼこれで、黄疸、糖尿病の悪化、まぶたの腫れといったIgG4関連疾患による症状は消失する。ステロイドの減量や中止で再燃する人もいて、3年を目安に少量を投与し続ける例も少なからずある。

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