地方に波及する梅毒パンデミック 年内に1万人感染の可能性も

新規感染者が地方都市に広がっている(写真はイメージ)
新規感染者が地方都市に広がっている(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

「梅毒」の感染拡大が止まらない。主に性行為で感染するこの感染症の全国患者数は2013年に1000人に過ぎなかった。

 ところが、16年には4518人、昨年は7873人となった。今年も第18週(~5月8日)までに3339人となり、昨年同時期を大きく上回っている。しかも新規感染者が地方都市に広がっているという。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(KADOKAWA)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に聞いた。

「梅毒患者数は目に見えて増加しており、強い危機感を覚えています。梅毒は全件数を1週間以内に届け出さなければならない5類感染症に指定されています。昨年の第18週(~5月9日)までが2048人に対して、今年の第18週では3339人。1291人も増えた。この調子でいけば年間9600人以上、悪くすると1万人に達するかもしれません」

 特筆すべきは東京の患者数だ。昨年の第18週時点では690人だったのが、今年は第18週までに1028人と大きく増加した。これには2つの理由が考えられるという。

「東京では新型コロナ感染症の新規陽性者数が昨年11月24日の5人が今年2月2日には2万1562人まで増加、4月末まで5000人を超える日が続いていました。感染後の後遺症も話題になったこともあり“濃厚接触”を避けて減るかもしれないとの期待がありました。しかし、感染しても重症化しない、と考える人が増えたせいか、逆の結果になりました」

 もうひとつは梅毒患者のカウントの仕方にもよるという。

「注意したいのは感染者数は届け出た医療機関の所在地でカウントされることです。“地元で梅毒だと知られたくないので大都市の医療機関を受診した”という人も多い。東京はもちろん大阪などの増加数は周辺地域に住む患者さんの増加分が反映された結果とも言えます」

 それだけ、梅毒感染は地方に広がっているということだ。ちなみに、埼玉は80人から144人、千葉は75人から88人、神奈川は75人から138人と増加している。

 それ以外では北海道は52人が117人、宮城は28人から34人、静岡は36人から71人、愛知は144人から211人、大阪210人から366人、兵庫66人から95人、広島は40人から122人、福岡県も80人から121人、熊本は33人から49人と増加している。

■注射1本で治療は完結

 これまで報告数が少なかった県でも感染者数は増えている。 

 鹿児島では、昨年同時期に9人だった感染者数が今年は45人と5倍となった。岡山も29人から45人へと増えている。一方、高知は25人から17人に。宮崎は36人から23人へと減少している。

「実数だけではわかりにくいのですが、2021年のデータをもとに人口100万人当たりの梅毒患者数を調べると高知、岡山、宮崎は大阪並みでした。その危機感から高知、宮崎は減らしているのかもしれません」

 男女比では20代までは女性が多いのに対して30代以降は逆転。男性の方が多い。

 実際に22年第19週(~5月15日)の東京都の梅毒患者報告数を男女別に見ると、10代(男性6人、女性31人)、20代(同179人、258人)までは女性が多いのに対して、それ以降は逆転。30代(同201人、59人)、40代(同191人、21人)、50代(同119人、10人)、60代(同31人、0人)、70代以降(同7人、0人)となっている。

 梅毒は妊娠中に感染すると、母体を通じて胎児に障害が出たり、死亡することもある。

「日本産婦人科医会が行った妊娠中の梅毒感染症に関する実態調査(15年10月~16年3月)によると、19歳以下の妊婦の場合の感染率は537分の1に対し、20代は2449分の1、30代は8091分の1、40代以上は6012分の1と、若い女性の分娩妊婦の梅毒感染率が高くなっています。梅毒に感染した母体から胎児への感染リスクは60~80%と非常に高くなります」

 梅毒は3~6週間の潜伏期間を経て性器にしこりや潰瘍ができ、放置すると全身に多様な皮疹、粘膜疹などが出現。脳や心臓に障害が出て最後は死亡する。

「いまは梅毒の世界標準治療である『ベンジルペニシリンベンザチン筋肉注射薬』(ステルイズ水性懸濁筋注)が承認され、注射1本で治療が完結することも可能です。恥ずかしい、めんどくさいなどと思わずに心当たりのある人はすぐに受診してください」

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