60歳からの健康術

眼科編(12)「シャルルボネ症候群」は加齢黄斑変性症の12%が経験

写真はイメージ
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 いないはずの人やモノが見える──。ドラマや怪談話では過去に悪行を重ねた人が年をとって生々しい被害者の幻影に苦しめられるシーンが登場する。多くの人は作り話と思うだろうが、必ずしもそうとは言えない。実際に、周囲の人には見えない人やモノが明瞭に見える目の病気があるからだ。それが「シャルルボネ症候群」だ。自由が丘清澤眼科の清澤源弘院長に聞いた。

「幻視が見える人は精神的に問題がある人、というイメージがあるかもしれません。しかし、年を重ねると誰でも見る可能性があります。それは、目の病気で欠けた視野を脳の中で過去の記憶で補うことで起きると考えられているからです」

 実際、幻視を見たことがあるという高齢者は少なくない。ただし、自分が精神疾患を持っていると疑われるのを恐れて、幻視を隠そうとしているという。

「シャルルボネ症候群の最初の記述は、1760年にスイスの科学者シャルル・ボネが記したエッセーです。認知症ではない87歳の祖父が、両側白内障による視覚障害の発症後に経験した幻視を記録しました。最近になって、これは白内障や視神経障害だけでなく緑内障や加齢黄斑変性にも多く見られることが注目され、シャルルボネ症候群で見られる幻視の症状を認識することの重要性が指摘されています」

 加齢黄斑変性症とは、モノを見るのに重要な網膜の中心部である黄斑部が変性する病気のこと。日本では視覚障害者手帳交付の原因疾患の第4位で、高齢者の失明につながり、50歳以上で70万人以上の患者がいると推定されている。

 では、加齢黄斑変性症の人はどのくらいの確率で幻視が見られるのだろうか? 加齢黄斑変性に関する大規模な調査では12%にシャルルボネの幻視が存在することが報告されているという。

「この病気には黄斑組織が加齢とともに萎縮する萎縮型と滲出型があり、前者の症状はゆっくりと進行。後者は網膜のすぐ下に新しい血管(新生血管)ができて黄斑にダメージを与え、視力が急激に低下することがあります。滲出型では、それ自体でもちらつき、閃光、円、風車、ジグザグなど形のハッキリしない、光る画像が見えることがあります。ある調査では滲出性黄斑変性症患者群の59%が光視症を持っていました。幻視や何かよくわからない画像が見えたときは、精神的なものではない目の病気を疑い、眼科専門医に相談することが大切です」

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