感染報告が相次ぐ「サル痘」は何が怖いのか? 動物ウイルス学者に聞いた

サル痘ウイルス
サル痘ウイルス(CDC提供・共同)

 新型コロナウイルス感染症も収まらない中、新たなウイルス感染症の感染拡大への懸念が浮上している。その名は「サル痘」。

 西アフリカや中央アフリカの一部でみられるウイルス感染症だが、5月7日の英国での報告を皮切りに、5月21日時点でそれ以外のスペイン、ポルトガル、オーストラリア、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、米国、ベルギー、スウェーデンなど12カ国で92人の感染者が確認され、28人が確認中だという。どんな病気なのか?

 京都大学医生物学研究所付属感染症モデル研究センターの宮沢孝幸准教授に聞いた。

「サル痘は、サル痘ウイルス感染による人獣共通感染症です。サル痘ウイルスは天然痘ウイルスや牛痘ウイルスなどの仲間で感染症法では4類感染症に位置付けられています。1970年のザイール(現コンゴ民主共和国)で最初の報告があり、アフリカ中央部で発症するコンゴ盆地系と西アフリカ系の2系統あり、前者の方がヒトからヒトに感染しやすく、重症化しやすいとされています」

 自然宿主は不明だがアフリカに生息しているげっ歯類(ネズミやリスなど)が疑われている。

 欧米で流行することはめったになく、過去にペットとして輸入された動物を介して47例の発生が米国で報告されている。

「この病気は感染動物にかまれるか、血液・体液・発疹に触れることでヒトに感染するといわれています。ヒトからヒトへの感染はまれですが、4年前の英国からの報告ではナイジェリアからの帰国者からリネン類を介して医療従事者が感染したそうです。そのため患者の飛沫・体液・発疹に触れることで感染する可能性が考えられています」

 発症すると発熱、頭痛、リンパ節の腫れ、筋肉痛などが5日ほど続き、その後発疹が現れる。発疹は顔から体の中心へと広がるのが一般的という。

「発疹は水ぶくれから、膿がたまったものを経てかさぶたとなり、発症から2~4週間で治ります。発疹は皮膚だけではなく、口腔、陰部の粘膜、結膜や角膜にもできる場合もあります。ただし、初期段階では水痘や麻疹、梅毒などの発疹と鑑別できない場合があります。リンパ節が腫れることが多く、似たような発疹が現れる天然痘との鑑別も必要です」

 この病気の致死率は最大11%との報告もあり、特に小児において高い傾向にあるという。ただし、日本を含めて先進国では死亡例は報告されていない。小児などで重症化、死亡した症例の報告もあるが、多くは2~4週間で自然に回復する。

「サル痘は一般的には症状は重くないといわれ、濃厚接触で広がるため隔離や衛生管理によって比較的拡大を抑制しやすいとされています」

■バイオテロでの使用を懸念された過去も

 ではなぜ、いま話題なのか?

「それは今回の感染報告が英国から始まり、スペイン、ポルトガル、ドイツ、フランス、スウェーデン、ベルギー、米国など、流行地域以外で同時多発的に報告されているからです。世界で最初にその存在が報告されてから50年間は、アフリカ以外ではほとんど報告されておらず、ヒトからヒトへの感染もめったにしないとされています。そのウイルス感染症がなぜいま、同時多発的に発見されるのか。不思議です」

 サル痘は先述した通り、撲滅された天然痘に似た症状があり、多くは軽症でありながらも重症化して亡くなることもある。そのため以前からバイオテロリズムに使用されることが懸念されてきた。

 ただ、今回、アフリカ以外で報告された患者は多くが男性だ。20~40代が多く、ゲイやバイセクシュアルの人が多いことから、感染は性交渉による接触感染で起きたのではないか、という見方もある。

「世界保健機関(WHО)が『これまでの情報から、症状のある人との濃厚接触でヒトからヒトへの感染が起きていることが示されている』と注意を促していることが気になります。たまたま今回、英国からの報告を受けて医療体制がしっかりしている欧米で発見されているだけで、すでに多くの国で感染者が広がっているのかもしれません」

 2020年3月11日にWHOが新型コロナウイルス感染症を「パンデミック」と宣言して3年目。マイクロソフト社の共同設立者であるビル・ゲイツ氏が2月のミュンヘン安全保障会議で語った「われわれは再びパンデミックを体験することになる」との予言は、現実のものになるのだろうか?

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