高齢者の正しいクスリとの付き合い方

内服薬の“危険な飲み方”には要注意…誤嚥して窒息する可能性も

上を向いて“ごっくん”はとても危険
上を向いて“ごっくん”はとても危険

 錠剤やカプセル、粉薬といった内服薬を水と一緒に服用する際、飲み込み方や姿勢を意識したことはあるでしょうか? 内服薬を飲み込むとき、顔を上に向けて“ごっくん”している方を見かけます。特に高齢者でそういった方が多いような印象です。じつはこの飲み込み方はとても危険なのです。

 われわれは何か物を食べるとき、モグモグしながら舌の上で食べ物の団子=食塊を作っています。そして、いよいよ飲み込むというときには、食塊が誤って気管に入ってしまわないように喉頭蓋という部分で気管に蓋をしています。ごっくんするときに喉に触れてみてください。喉仏が動くのがわかると思いますが、これは喉頭蓋が気管に蓋をしている動きなのです。唾液や食物などの異物が気管に入ることを「誤嚥(ごえん)」といい、この動きは誤嚥を防ぐためにとても重要なものとなります。

 内服薬を飲むときに顔を上に向けるというのは、口から喉までを一直線にすることで内服薬を飲み込みやすくしようとしていると考えられます。特にクスリの服用が苦手な人は、こういった姿勢になりやすいのではないでしょうか。これがなぜ危険なのかというと、口から喉までが一直線になると、急激に内服薬が喉に流れ込んでしまうことで喉頭蓋が気管を塞ぐ動きが間に合わなくなってしまい、誤嚥のリスクが高くなるためです。最悪の場合、窒息の可能性もあるほど危険なのです。

 高齢になると、飲み込む力(嚥下=えんげ=能力)も低下します。もちろん喉頭蓋の動きも例外ではありません。つまり普通に食べ物を飲み込む場合でも誤嚥のリスクは高くなっているということです。

 それに加え、顔を上に向けてあえて内服薬が喉に一気に流れ込むような飲み込み方をしてしまうと、誤嚥や窒息のリスクが一層高くなってしまいます。さらに、高齢者では咳反射も低下します。通常であれば誤嚥するとむせるのですが、むせることすらないまま誤嚥している、という状態も起こりえるのです。

 内服薬を正しく飲み込むためのコツは、①背筋を伸ばす(姿勢を良くする)②あごを引いた状態で飲み込む──たったこの2つです。内服薬の種類が多い場合は、一度に飲み込もうとせず、複数回に分けて服用するのも有効です。よく考えてみると、これらは普段の食事のときに無意識かつ当たり前にやっていることですね。食べ物を飲み込むときに顔を上向きにすることなんてまずないはずです。

 せっかくのクスリも飲み込み方ひとつで誤嚥や窒息のリスクになるということをぜひ知っておいてください。顔を上に向けて飲み込んでいる方は、正しい飲み方を身につけて安全にクスリが使えるようになりましょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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