進化する糖尿病治療法

これさえすれば血糖値が下がる…ワンポイント情報に騙されない

毎日続けられる運動を
毎日続けられる運動を(C)日刊ゲンダイ

 2019年4月にスタートした本連載が、今回で最終回になります。糖尿病専門医としての私の思いを伝えたいと思います。

 昨日、今日の外来でもそうでしたが、ゴールデンウイーク明けくらいから、30~50代の糖尿病患者さんのHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が軒並み上昇しています。

 HbA1cは数カ月の血糖コントロールを示すもので、0.1下げるのもなかなか大変なのですが、だいたいみなさん0.2~0.3程度、上がっている印象です。明らかに言えるのは、「コロナが明けた感(実際は明けていないですが)」で外食回数が増え、摂取カロリーが上昇していること。

 改めて感じたのは、食事の重要性です。糖尿病に「食べてはいけないもの」はないですし、外食も、スイーツもOKですが、毎日毎食好きなものを好きなように、という生活は確実に血糖コントロールを悪くします。「今日外食をしたら、あした、あさっては粗食にする」といった、数日間で調整する意識を持っていただきたいと思います。

 運動の重要性も、伝えたい内容になります。どんな運動が向いているかは人によって違います。週3回はウオーキング、といった高い目標を掲げ実行できるならいいですが、それで挫折しそうなら、テレビを見ながらストレッチすることから始めるのでもいいんです。思いついた時にスクワットするのでもいい。続けられる運動を選んでください。プラス、長続きさせるためのポイントは、人を巻き込んでやること。家族、同僚、友人など、だれかと一緒にやる方が三日坊主になりにくいです。

 いま、高い減量効果を持つ薬が厚労省に承認申請中です。承認されれば、肥満によって健康障害が生じている「肥満症」の患者さんに向けて処方されるようになるでしょう。健康障害の中に糖尿病も含まれており、肥満で血糖コントロールが悪く、肥満がなかなか改善されない患者さんも対象になります。

 では、その減量効果のある薬を服用すれば、何を食べてもよく、運動をしなくてもいいかといえば、それは全く違います。薬で痩せても、その後リバウンドせずに適正体重を維持するには、正しい食事、適度な運動が不可欠です。

 ただ、患者さんの中には、ストイックになりすぎてしまう方もいるんですね。先日も、患者さんがこんなふうに呟きました。

「食べちゃうと止まらなくなっちゃうんです。だから、食べられないんです」

 好きなものを我慢しすぎているからの言葉。私はこう返しました。

「好きなものを一切やめる方法は続かないですよ。土日は好きなものを食べるとかしてもいいじゃない」

 普段から食事制限をできていない人には絶対に言えない内容ですが……。もし、「好きな◎◎◎を我慢してやめている。つらくてたまらない」というようなら、少し気を抜き、1週間に1回は好きなものを存分に食べる日をつくってもいいでしょう。糖尿病は一生付き合っていかなければならない病気です。短い期間必死で頑張るより、長期的に取り組んだ方が、結果は良くなります。

 最後にもうひとつ。糖尿病患者さんに伝えたいのは、エビデンスのある、正しい情報を入手してほしいということ。

 テレビのワンポイント情報を信じてしまう患者さんが珍しくありません。「納豆を食べると血液がサラサラになる」「ヨーグルトで免疫力を上げる」など。「1つ何かをしたらすべて解決」ということは、病気治療ではあり得ません。

 新しい情報に敏感になってほしい。糖尿病に限らず、病気の治療法、薬はどんどん進歩しています。数年前とガラリと変わってしまったことも数多くあります。自分が患う病気の情報に敏感になり、雑誌や新聞で新しい情報を得たら、切り抜いて主治医に「こんなこと書かれていたんだけど」と話すのも手です。今服用している薬より、もっと効き目が良い薬、服用回数が少なくて済む薬に替えられるチャンスかもしれません。

 日本糖尿病学会の大きな目標は、糖尿病であっても健康な人と変わらない人生を送る。みなさんがそうなることを祈念しています。(おわり)

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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