がんと向き合い生きていく

がんで亡くなった旧友の病気を知っていたら役に立てただろうか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 旧友であるM君の奥さんからハガキが届きました。そのハガキには寅さんがカバンを持って歩く姿が印刷されています。そして、こう書かれていました。

「あの世から(帰ってくる)といって永遠の旅に出かけました」

「地域医療に励み……M家一族の面倒をみました。医師としていやな顔せず頑張ったと思います……全身がん発覚から4カ月で亡くなりました」

 M君と私は、約3年間、同じ下宿にお世話になりました。古い家の2階に2部屋があって、それぞれM君と私の部屋でした。朝食と夕食は1階にある大家さんの居間まで下りて、畳に座って2人で向かい合っていただきました。

 夜、M君の部屋でよく将来のことなどについて話しました。彼は地域の医療のこと、私は研究の道……などを話題にしました。

 暗い私の部屋とは違って、M君の部屋はいつもきれいに整理されていました。アンディ・ウィリアムスの「ムーン・リバー」など外国歌手のレコードがあり、よく一緒に聴きました。私は小学生の頃、昼休み時間に劇場から町中に響く三橋美智也の歌に慣れ親しんだのですが、それとはまったく違った雰囲気でした。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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