年間1万人と予想される梅毒感染でリスクが上昇 「HIV」「エイズ」に気をつけたい

梅毒に感染しているとHIV感染リスクが高くなる(写真はイメージ)
梅毒に感染しているとHIV感染リスクが高くなる(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 新規梅毒患者数が年間1万人ペースで増えているという。そこで注意したいのは、梅毒に感染している人はエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)発症前のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染リスクが非常に高いということ。しかも、いまは新型コロナウイルス感染症の流行でHIV・エイズ検査をする人が減っており、知らぬ間に感染が拡大している可能性がある。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に聞いた。

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 エイズとはHIVに感染することで免疫の機能が著しく低下し、重症な感染症やがんを併発するようになる病気のこと。

「具体的には血液中に流れる白血球の一種で感染症から体を守る中心的な働きをするCD4陽性リンパ球が次々破壊され、発症します。エイズをひとつの病気だと考えている人もいますが間違いです。エイズはHIV感染によって引き起こされる23の病気の総称を言い、これらの病気のいずれかを発症しない限りはエイズとは言いません」

 国内の発症者で最も多いのは、以前はカリニ肺炎と呼ばれていた「ニューモシスティス肺炎」や「カンジダ症」(食道、気管、気管支、肺)といった真菌症で、「サイトメガロウイルス感染症」「HIV消耗性症候群(全身衰弱)」などの順番となっている。複数の発症もある。

「HIVは梅毒同様、病原体を含んだ血液や精液、腟分泌物などの体液が、性器、肛門、口などの粘膜や傷口などに直接触れることで感染するリスクが出てきます。HIVに感染すると梅毒になるリスクは高くなり、逆に梅毒になるとHIVに感染するリスクは増していきます。クラミジアなどの他の性感染症に感染している人も粘膜の防御力が落ちており、HIVに感染するリスクは高くなります」

 エイズが厄介なのはHIVに感染しても長い間エイズ症状がなく病状が進行することだ。自分がHIVを疑い、自ら検査を受けなければ感染していてもその有無を確認することはできない。

「感染したらどうせ助からない、ならば発症するまでその事実を知りたくない、検査は受けない、という人もいますが、それは勘違いです。昔とは違い、いまはエイズ発症前のHIV感染時点で治療をすれば95%以上は発症を抑えられ、他人への感染を防げるようになっています。検査を先延ばしして『いきなりエイズ』を告げられることは避けなければなりません」

■保健所なら「匿名」「無料」で検査できる

 HIV検査はわずか5㏄の採血で終わる血液検査だ。一般的な医療機関では有料だが匿名でОK。保健所なら匿名、無料で受けられる。

 ところが新型コロナの感染拡大によって検査を受ける人が減っており、早期発見、早期治療の体制が崩れることを医療関係者は懸念しているという。

「エイズ動向委員会の令和4年3月15日発表によると、令和3年1~12月の保健所などにおけるHIV抗体検査数(確定値)は5万8172件で、過去20年間で最低でした。保健所などにおける相談件数も同様です。梅毒が急拡大している中、その梅毒と関係が深いHIVやエイズへの関心が薄れていることを心配しています。令和3年の約1年間の新規HIV感染者報告数は717件で過去3番目に低く、『いきなりエイズ』を告げられた新規エイズ患者報告数も306件で過去最低だったのも、単に検査数が減ったせいかもしれず、実態はむしろ増えているかもしれないのです」

 ちなみにエイズ動向委員会が発表した「令和3年HIV感染者・AIDS患者の年間新規報告数(速報値)」によると、新規HIV感染者は同性間性的接触513件(全体の約72%)、異性間性的接触87件(同約12%)、母子感染1件で20~40歳代が多かった。一方、新規エイズ患者は同性間性的接触151件(全体の49%)、異性間性的接触53件(同約17%)、静注薬物1件で30~50歳代が多かった。

「日本ではHIV・エイズともに同性間性的接触の患者数が多いため、『男性同性愛者の病気』と思われがちですが、世界全体ではHIV陽性者の半分は女性で、男女間感染が主流です。男女ともにHIVやエイズは他人事ではないのです」

 なお、いまはHIV感染予防のための薬がある。セックスして72時間以内に抗HIV薬の内服を28日間、1日1回か2回行うことで感染リスクを80%以上低減できるとされる「PEP(暴露後予防内服)」、セックスする前から抗HIV薬を飲む「PrEP(暴露前予防内服)」だ。詳しくは性感染症専門医に相談することだ。

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