五十肩を徹底解剖する

断裂が大きくなると再発率40%…手術するならタイミングが大事

写真はイメージ
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「腱板断裂」はまず保存療法を行い、もし治りが不十分で患者さんがさらなる治療を決心されたとき、手術治療を行う。これが教科書的なタイミングです。

 痛みがひどい時期は誰もが治療に専念します。しかし、のど元すぎれば熱さを忘れるがごとく、保存治療で痛みさえ取れれば、腱板断裂や病院通いのことなどすっかり忘れてしまいがち。家庭や仕事、趣味に明け暮れてしまうのも仕方ありません。反対に痛みが取れても残った断裂部分を心配し、今後大きく裂けてしまうのを恐れてじっとしているのは人生がもったいないものです。

 しかし本欄で前回、手術しないまま大きな断裂に至った場合、その段階で手術をしても、小さな断裂のときに手術をした場合より良くないとお話ししました。

 報告にもよりますが、大きな断裂では、手術で腱板をつないでも再度裂けてしまう確率は30~40%にもなるとされています。中にはせっかく手術に臨んでも、腱が引っ張り出せなくてつなげられない手術不能例までもあります。

 ただし、実は「再断裂=手術失敗」ではありません。再断裂した範囲が一部にとどまり、残った周囲の筋肉をリハビリし、うまく鍛えられれば、そこそこの機能回復は期待できます。断裂したまま改善を目指す保存治療と同じですね。しかし、その治り具合は、完全修復例を通信簿に例えて「優」から「良」とすると、再断裂例は「良」から「可」くらいの成績です。また「不可」にとどまる例もあります。

 手術後不良例や手術困難例にも、さらに治療法があります。肩以外の部分から筋の一部を採取して断裂部に移植し補う方法や、肩甲骨に付着する筋肉全体を剥がし、腱修復部までスライドさせることで緊張なく腱板をつなぐ方法、あるいは人工関節に入れ替える方法などです。

 特に人工関節は筋肉だけでなく骨ごと交換するため、本当に治療の最終手段。万が一失敗しても後戻りができません。

 長期的な視点からみれば、大きな断裂になる前に確実に治療できるのが理想です。

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

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