血液型と病気

血液型は肺がんの予後に影響する 発症リスクとは無関係だが…

写真はイメージ
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 国立がん研究センターの資料によれば、2018年の新規肺がん患者は、男性が約8.2万人(前立腺、胃、大腸に次いで4位)、女性は約4.1万人(乳房、大腸に次いで3位)です。20年の死亡は男性が約5.3万人でトップ、女性は約2.2万人で大腸がんに次いで2位です。また全世界で見るとがん新規患者のうち13%が肺がんで占められています。

 肺がんと血液型の関係については、1950年代からかなり詳しく調べられてきました。しかし膵臓(すいぞう)がんや胃がんで見られたような、はっきりした傾向は見つかっていません。つまり、組織血液型抗原は、肺がんの発症リスクとほとんど無関係ということです。ただし、患者の予後と関係しているらしい、という研究がいくつも発表されています。

 肺がんと言っても、大きくは「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれており、性格はまったく異なります。血液型が関係しているのは、非小細胞肺がんのほうです。

 組織血液型抗原は、分泌型の人で、肺の粘膜細胞に発現しています。血液型がA型ならA抗原、B型ならB抗原、O型ならH抗原(O抗原)です。またAB型は、A抗原とB抗原の両方を持っています。それらは肺の粘液に溶け出してきます。 

 ところが、非小細胞肺がんになると、粘液中の組織血液型抗原が減少、あるいは消滅してしまうのです。A・B・H抗原は、その共通の前駆体からFUTと呼ばれる酵素グループによって作り出されます。しかし非小細胞肺がんでは、それらの酵素の遺伝子が消失してしまい、結果として組織血液型抗原が合成されなくなるのです。

 組織血液型抗原の濃度と患者の予後の関係を調べたところ、とくにA抗原で負の相関が見つかったのでした。つまりA型とAB型の患者では、粘液中のA抗原が減っているほど、予後が悪いという結果が得られたのです。一方、B型やO型の人ではそういう傾向は見られません。

 まとめると、非小細胞がんのリスクは血液型とほとんど無関係ですが、なってしまうと予後リスク(死亡リスク)はA型とAB型の分泌型の人が不利、ということが言えそうです。実際、2015年に名古屋大のグループが発表した論文でも、A型とAB型は、5年全生存率でも無病生存率(5年間再発なし)でも、O型やB型と比べてかなり不利だとしています。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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