ジェネリックも先発薬も…深刻な「クスリ不足」の現状はどうなっているのか

深刻なクスリ不足
深刻なクスリ不足

“クスリ不足”がますます深刻な状況になっている。ジェネリック医薬品メーカーの不正製造をきっかけに、昨年の夏ごろから全国的なクスリの供給不足が始まり、いまも改善の気配はない。患者側も知っておくべきクスリの現状について、長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長の荒川隆之氏(感染制御認定薬剤師)に聞いた。

「ジェネリック医薬品」とは、先発医薬品(新薬)と同じ有効成分を含んでいて、同等の効能があると厚労省が認めた医薬品を指す。新薬のような開発費がかからないため薬価が3~5割ほど安くなり、患者の負担が軽減される。

 膨らみ続ける医療費を削減したい政府は、将来的に医療機関で処方されるクスリの8割をジェネリックに置き換える方針を決定。それを受け、ジェネリックの使用割合は昨年9月の調査で79%まで拡大している。

 ジェネリックへの転換が急速に進む中、2020年12月に小林化工が製造する水虫治療薬に睡眠導入剤が混入し、全国で健康被害が出ていることが発覚。国が認めた手順とは違う工程で製造されていた不正も判明した。

 それを受け、全国で立ち入り調査や自主点検が実施された結果、複数のメーカーで製造工程の問題が見つかり、2021年から2022年にかけて9つの会社に相次いで業務停止命令が出る事態となった。

「この一連の不祥事によって、医薬品の出荷が次々にストップしました。あるクスリの出荷が止まると、同じ成分のクスリを製造しているメーカーに注文が殺到することになります。しかし、製造や供給の量には限界があるため、すべてに対応するのは難しい。そうした状況があちこちで起こったのです。さらに、新型コロナウイルスの世界的な流行やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、『バルク』と呼ばれるクスリの原材料の確保や流通にも支障が出ました。こうしたさまざまな要因が重なって、全国的なクスリ不足が続いているのです」

 日本ジェネリック製薬協会の調査では、今年5月末の時点で約2500品目の供給調整が行われているという。治療薬が不足している疾患は、喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、狭心症や不整脈などの心臓疾患、気管支炎や肺炎などの呼吸器疾患、胃炎や胃潰瘍などの消化器疾患、てんかん、うつ病、リウマチ、骨粗しょう症、感染症など多岐にわたる。

■サプリメントを購入してもらうケースも

 ジェネリックが不足しているなら、先発薬を使えばいいのではと考える人もいるだろう。しかし、そう簡単にはいかない状況だという。

「あるジェネリックの在庫が不足している場合、まずは同じような効果が期待できる別のジェネリックを探して処方するケースが多いと思われます。ジェネリックを多く処方した病院や調剤薬局には診療報酬が加算されるため、医療機関の経営に関わってくるのです。また、患者さんの負担も変わってきます。たとえば、抗てんかん薬のレベチラセタム(一般名)は、先発薬とジェネリックで1錠当たり約90円の差額があり、先発薬に切り替えると1日2錠の服用で182円、1カ月で5460円の増額になります。3割負担の場合、1638円増ですが、長期に服用すれば大きな差額になりますし、クスリが複数あればそれだけ負担も増えてしまいます。そうした事情も考慮して、まずはジェネリック同士で代替品を探すのです」

 別のジェネリックがない場合、先発薬への切り替えを検討するが、どこの医療機関も薬局も同じことを考えるため、先発薬も不足しているという。

「クスリ不足の状況が続いていることから、そのクスリが本当に必要な状態の患者以外には出さないようにとの“お願い”が通達されたケースもありました。たとえば、骨粗しょう症の患者さんに使われる活性型ビタミンD3製剤のエルデカルシトールというクスリは、ジェネリックも先発薬も不足したことから、代わりに少し効果が弱いアルファカルシドールというクスリが出されていました。しかし、アルファカルシドールは副甲状腺機能低下症、腎不全に伴う続発性副甲状腺機能亢進症、くる病・骨軟化症といった疾患の患者さんにとって必要度が高いため、骨粗しょう症の患者さんには使わないよう学会から要望があったのです。結局、骨粗しょう症の患者さんにはビタミンDのサプリメントを自身で購入してもらうことになりました」

 ジェネリックも先発薬も足りない状況は、まだまだ続くと考えられる。患者はどう対応すればいいのか。

「複数のクスリが処方されている人は、本当にそのクスリが必要なのかを担当医に相談して、あらためて見直すとよいかもしれません。また、『いつものクスリでなければ嫌だ』といった要望は通らないと考えておくべきです」

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