がんと向き合い生きていく

脳梗塞による左麻痺が起こった原因は隠れた膵臓がんだった

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 それから3日間、点滴治療が続きましたが、左の麻痺は変わりません。それでも、右手足を使って起き上がることはできました。また、おかゆの食事が始まったのですが、なんとなくむせる感じがあり、のみ込むのに時間がかかりました。

 Bさんの膵臓がんは、肝臓にも転移していました。そして担当医からこう告げられました。

「血液凝固異常を改善するには大本のがんをやっつける必要がありますが、今の病状では手術はできません。のみ込みがもう少し良くなったら抗がん剤治療を考えますが、それともご自宅に帰りますか? 余命は短いかもしれません」

 Bさんは、麻痺のリハビリをがんばって、生きていこうと覚悟していました。それが、短い命かもしれないと言われたのです。Bさんは愕然として、頭を下げたままじっとしていました。

 担当医が立ち去った後、奥さんからこう言葉をかけられました。

「短い命かもしれないって言われたけど、先のことはだれにも分からないのよ。お父さん! 負けないで。一緒にがんばろう。奇跡を起こそうよ」

 Bさんは「うん」とうなずきました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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