QOLを下げる「わき汗」…6月治療でひと夏を爽快に乗り切る 新承認の塗り薬は保険適用

悩んでいるなら病院で治療を
悩んでいるなら病院で治療を(C)日刊ゲンダイ

「わき汗」は決して悪いことではないが、悩んでいるなら「病院での治療」という選択肢もある。2020年には、保険で処方できる日本初の塗り薬(外用薬)も登場し、また今年になってからも新たな外用薬の製造販売承認がされている。

 日常生活に支障をきたすほどの「わき汗」は、多汗症のひとつ。多汗症には病気が関係して起こるものがあり、病気の治療で多汗症が改善する。しかし多汗症は原因不明も多い。「わき汗」に悩む人の大半がそうだ。この「わき汗」を「原発性腋窩多汗症」という。長年、多汗症の治療に携わる東京医科歯科大学の横関博雄名誉教授が言う。

「原発性腋窩多汗症は、左右対称性に下着やシャツに染みができるほどの汗が出ます。暑くても、また精神的な緊張でも多汗がみられます」

 日本での疫学調査によると、10人に1人が多汗症。このうち59%が原発性腋窩多汗症だった。

 多汗症はHDSSという指標で重症度を4段階に分類できる。原発性腋窩多汗症で治療経験がない人を対象にした調査では、約95%が「発汗が時々/頻繁に/常に支障がある」と答えた。

■病院受診者は約4%との調査結果も

 ところが前出の疫学調査では、受診率は4.4%。「わき汗」の外用薬を販売する製薬会社「マルホ」の意識調査でも、「自分はわきの多汗症」と自覚している人が9割だったのに対し、受診している人は1割。

 その理由の半数を占めたのが「どの病院に行けばよいかわからない」で、「わざわざ病院に行くほど重大な病気ではない」と認識している人が3分の1いた。

「しかし多汗症は、ほかの病気と比べてもQOL(生活の質)が著しく障害されていることが、研究で示されています。社会生活や精神活動に悪影響を及ぼし、うつ状態を招くこともあります」(横関医師=以下同)

「治療」という選択肢を知っておくことは、QOL向上につながる可能性が大きい。

 原発性腋窩多汗症は、基礎疾患がなく、わきに過剰な発汗が明らかな原因のないまま6カ月以上認められ、次の2項目以上が当てはまる場合に診断される。「発症が25歳以下」「左右対称性に発汗」「睡眠中は発汗が止まっている」「週に1回以上の多汗のエピソードがある」「家族歴」「それらにより日常生活に支障をきたす」だ。

「治療は、外用薬、ボツリヌス毒素の注射、重症例では薬の内服療法、さらに重症例では外科的切除や、交感神経の一部を切断する腹腔鏡下交感神経遮断術があります。最近開発された治療としては、非侵襲性のマイクロ波を用いたレーザー治療、抗コリン薬の外用薬があります」

 2020年に日本初の保険適用、そして今年製造販売が承認された外用薬はいずれも抗コリン薬になる。従来の外用薬は塩化アルミニウムを主成分とするもので、非保険適用。抗コリン薬という保険適用の外用薬が登場した意味は大きい。

「現在、原発性腋窩多汗症のアルゴリズム(診療手順)として、まずは外用薬である制汗剤(抗コリン薬、塩化アルミニウム)、効果が不十分ならボツリヌス毒素製剤、それでも効果が不十分なら内服抗コリン薬という案がまとめられ、日本皮膚科学会に提出されている段階です」

 繰り返しになるが、塩化アルミニウム外用薬以外、保険適用。ただし、ボツリヌス毒素は重度のみ保険適用だ。外用薬、ボツリヌス毒素、内服薬で効果がなければ、保険適用外のレーザー治療、手術、保険適用であるものの条件付きの腹腔鏡下交感神経遮断術という選択肢もある。

「抗コリン薬の外用薬は長期的に使っても問題ありません。夏のひどい時だけ使う方法もあります。ボツリヌス毒素は数カ月間効果が持続するため、6月ごろに注射し、ひと夏を乗り越えるという人もいます」

 覚えておきたいのは、冒頭で触れたように、「わき汗」に悩んでいるなら、治療という選択肢があるということだ。

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