認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

「アミロイドPET検査」でアルツハイマー病を迎え撃つ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 アルツハイマー病は、現在「治す薬」がありません。日本で承認されている4種類の薬はいずれも症状の進行を遅らせるもので、しかも、その効果は長く続きません。

 だから長らく「アルツハイマー病を恐れる時代」が続いていました。しかし私は、「迎え撃つ時代」がやってきたと考えています。それに役立つのが、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの蓄積量を調べる「アミロイドPET検査」です。

 日本でアミロイドPET検査を受けられる施設は限られており、その中でも当院のように認知症専門医が担当し、その後の対策と治療を包括的に行っているところはほぼないでしょう。検査というのはゴールではありません。その結果を見て、次の作戦を立て攻めていくからこそ、受ける価値があります。

 アミロイドPET検査でアミロイドβがたまっていない、または蓄積量が少ない方は、今後アミロイドβをためていかない生活を指導します。

 それは、2019年にWHO(世界保健機関)が初めて発表した「認知機能低下と認知症のリスク低減の指針」における12項目、そして17年と20年に権威ある医学誌「ランセット」に掲載された認知症の12の危険因子に基づく内容です。

 WHOのガイドラインとランセットの論文は、運動、高血圧や糖尿病などの生活習慣、体重管理、喫煙、食生活、過度の飲酒など重なる部分が多い。血液検査も行い、該当するものをチェックし、危険因子を点数化して示し、それを下げていく方策を示します。

 一方、アミロイドβが蓄積している人はどうするか? アミロイドβの蓄積はアルツハイマー病発症リスクに関連していることは判明しているものの、100%アルツハイマー病になるかどうかは、まだ結論が出ていません。しかし、なりやすいということは言える。だから、できる限りの回避策を行います。

 先に挙げたWHOのガイドラインやランセットの論文で、該当する危険因子はないか? 検査結果によって打つ手は人それぞれで、高血圧、糖尿病などの生活習慣病がある人はその治療を始める。「アリセプト」などアルツハイマー病の症状緩和薬を早めに投与し始める人もいますし、脳循環改善薬を処方する人もいます。 

 睡眠の質が悪い人では、その原因を探り、睡眠導入剤を出したり、睡眠時無呼吸症候群(睡眠中に呼吸が止まる病気)があるならその治療を行います。

■「陽性」なら医療費控除の対象になる

 非薬物療法も重要です。脳を活性化させる方法としてエビデンスのあるもの(適度な運動、ながら作業、トランプや将棋のような対人ゲーム、旅行など楽しいことをする)を提案します。

 世界中でアルツハイマー病の研究者が、アミロイドβを減らすアルツハイマー病の次世代の治療薬への開発に取り組んでいます。こういった薬の最終段階の臨床試験を紹介するケースもあります。アルツクリニックでアミロイドPET検査を受け、アミロイドβの蓄積が確認された61歳の男性は、アルツハイマー病によるMCI(軽度認知障害)との診断で、その後、アルツハイマー病根本治療薬の国際的な治験に参加されました。

 なお、アミロイドPET検査は、検査薬が約25万円、検査機器が5億円と、医療機関側の投資にお金がかかるため、検査自体も高額にならざるを得ません。アルツクリニックの場合、55万円(税別)です。結果が「陽性」となれば医療費控除の適用となり、翌年の確定申告で税金の一部が控除されます。これは、人間ドックで疾病が発見され治療が開始されれば、ドック費用が医療費控除の適用となるのと同様です。

 さらに、アミロイドPET検査で陽性となれば、その後の治療費などは保険適用となります。月の限度額を超えた場合は高額療養費の対象になるものの、そこまで高額になることはありません。

 ちなみに認知症が進行した場合、厚労省と慶応義塾大学の研究では、入院医療費はおおよそ月額34万4300円、年間413万1600円(治療費と食費。個室料金、オムツ代、クリーニング代などは別料金)と試算されています。

 これからの時代は、予防活動や保険制度をうまく利用して、認知症を「迎え撃ち」ましょう。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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