「燃え尽き症候群」は誰でもなりうる…WHO国際疾病分類の最新版に追記

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写真イメージ(C)日刊ゲンダイ

 燃え尽き症候群──。聞いたことがある人もいるだろう。WHOが作成する国際疾病分類の最新版「ICD-11」が1月に発効され、今回「燃え尽き症候群」が追記された。「燃え尽き症候群は誰にでも起こり得る」と話す複数の企業で産業医を務める池井佑丞氏(「リバランス」代表)に話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

「燃え尽き症候群とは、仕事にやる気を出せず、適応できなくなった状態。シンプルにパワーが出ない、エネルギーが枯渇したと感じるといった場合、燃え尽き症候群の可能性が考えられます」

 結果的にパフォーマンスが落ちる。燃え尽き症候群自体は「病気」ではないが、放置するとうつ病などのメンタル疾患につながる恐れがある。

「メンタル疾患というと、生真面目できちょうめんな人がなりやすいと考えられがちです。しかし人の性格は多面的。ある面から見れば豪放磊落でも、別の面から見ると気遣いの人というのはよくある。私が産業医として接したメンタル疾患の人には、『まさかあの人が』と周囲に驚かれる一方で、産業医からすると、さもありなんということが少なくありません」

「燃え尽き」という名称から、ビッグプロジェクトを終えた後や、困難な仕事を乗り越えた後になるイメージがあるが、そうとは限らない。

「燃え尽き症候群は、やる気や意欲(火種)、行動やペース配分(薪)、人間関係や業務の負担(環境)のいずれかに問題があり起こる。火種と適切な環境があるところに、程よく薪をくべることで火は安定して燃え続けるのです。火種、薪、環境のどこに問題があるかで、私は燃えすぎ、燃え切らない、燃えないの3タイプに分け、対策を提案しています」

「燃えすぎ」は、典型的な燃え尽き症候群で、全体の20%ほど。「燃え切らない」は、火種はあるのに燃えずにくすぶっているタイプ。

 やる気や意欲はあるが、上司の理解がなかったり、能力を生かしきれない職場だったりというように環境が適していないと、薪をくべても火は大きく燃え上がらない。燃え切らなさに苦しみ、心身に異常が表れる。

 燃え尽き症候群の15%を占めている。

■燃えないまま燃え尽きるタイプが増加

 では「燃えない」は?

 例えば、全く興味の持てない部署に配属されたケースを想像するとわかりやすいのではないだろうか。モチベーションが上がらず仕事に身が入らない。年月の経過とともに、周囲との業務レベルに差がどんどん開き、一層やる気を失っていく。どんなによい薪や環境があっても、頑張る理由を見いだせずやる気や気力が湧かなければ、燃えないままに、燃え尽き症候群に至ってしまう。

「近年、この『燃えない』タイプが特に若い人の間で増えているように感じています。学生時代は趣味や価値観の合う人と交流し没頭することができていたのが、社会人となり意に沿わないことにも取り組まなければならなくなる。しかしそれにうまく対応できない。コロナ禍で人間関係が希薄になり、意欲が持てないときに自分をどう鼓舞していいかわからない、誰にも相談できないでいる人が多い印象です」

 燃えないタイプは全体の15%。また、燃え尽き症候群の半数は、複数タイプが混在していたり、明確に識別できない。

「メンタル疾患にまで至っていない燃え尽き症候群の段階なら、自分で対策を講じれば健全な心身を取り戻せます」

 まずは、睡眠・休養を十分に取る。次に、日常生活を「普通に」過ごす。朝は同じ時間に起き、日中はアクティブに過ごし、夜は同じ時間に寝る。

 ここまで安定して送れるようになれれば、職場に復帰。一気にマックスの状態へ持っていくのではなく、意識的に仕事量をセーブし、計画的に負荷を上げていく。そして最終ステップとして、上手に「燃えられる状態」を自らつくっていく。

 いずれも当たり前のことと思うかも知れないが、それができていないからこそ燃え尽き症候群に至ってしまう。

「そうなる前に気づき、対策を講じることが重要です」

 あなたはどうだ?

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