感染症別 正しいクスリの使い方

【夏風邪】十分な免疫を獲得していない子供が多くなっている可能性も

写真はイメージ
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 夏に流行する感染症の原因として、「エンテロウイルス」と「アデノウイルス」という2種類のウイルスが知られています。手足口病とヘルパンギーナはエンテロウイルス属のコクサッキーウイルスが原因で発症し、アデノウイルスは咽頭結膜熱(プール熱)の原因となります。いずれも、子供がかかる「夏風邪」として有名です。

 手足口病とヘルパンギーナは未就学児の感染が多く、2~4日前後の潜伏期間を経て発症し、発熱と口の粘膜にできた水疱、喉の痛みが見られます。どちらも、感染症発生動向調査において全国約3000カ所の小児科定点医療機関が週単位での届け出を求められる5類感染症です。

 両者の違いとしてわかりやすい点は、ヘルパンギーナは「突然高熱が出る」こと、手足口病は「口だけでなく手、足、お尻などにも発疹が出る」ことで見分けられ、診断されます。

 感染者の唾液、痰、鼻水から直接、あるいは触れた手からウイルスが周囲の人の口や喉の粘膜に運ばれ、感染していきます。便の中にもウイルスは存在するので、おしめを替えるときなどに手に付着して感染を広げてしまうこともあります。また、治癒後もしばらくの間(2~4週間程度)ウイルスを排出し続けるため、注意が必要です。

 ヘルパンギーナも手足口病もワクチンや特効薬はなく、治療は対症療法となります。口の中に発疹ができるため、食べ物や飲み物が口の中に入ると痛みを訴えるケースも多く、食欲不振、脱水症状を起こす危険性もあります。その場合には、点滴で水分や電解質を補います。

 ヘルパンギーナ、手足口病ともに、2020年はほとんど流行がみられませんでした。これは手洗いの徹底など新型コロナウイルスの予防策が別のウイルス感染症の流行対策にも効果を上げたためと考えられています。

 しかし一方で、ヘルパンギーナや手足口病の原因となるウイルスに対し、十分な免疫を獲得していない子供が多くなっていることも考えられるため、今後の流行には注意する必要があります。

 一番大切なのは、病原体のウイルスを体内に取り込まないことです。そのためには、日ごろの手洗いやうがいを欠かさないようにしましょう。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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