まだ7月上旬だというのにうだるような暑さが続いています。いつもはうるさい近所の犬もぐったりとしています。こんなときは体毛が少ない“ヒト”で良かった、などと思ってしまいます。そもそも哺乳類は「毛のもの」という意味で「けだもの」「けもの」と呼ばれます。哺乳類なのに体毛が少ないヒトはある意味、異常な存在なのかもしれません。
体毛には体を温かく保つ効果や紫外線から身を守る効果などさまざまな役割があります。とはいえ、水中を素早く泳ぐクジラやイルカなどには体毛がありませんし、暑い地域に生息するゾウやカバ、サイなどにはやはり体毛はほとんどありません。それは体毛が必要ないからでしょう。
ヒトの祖先の猿人が毛に覆われていたのは寒い地域に住んでいたか、そもそもその当時は地球全体が寒かったのかもしれません。いずれにしろ、森の木の上で生活していた人類が地上に下りて住みよい場所を求めたり、食べ物を求めるために長距離を歩くようになり、体毛で体を温かくするよりも、体の熱を放出するために体毛がない方がいいということになったのだと思われます。
人間に最も近いといわれているチンパンジーのゲノム(全遺伝情報)を比べてみると、約98.8%が同じだそうですが、わずか1.2%程度の違いにもかかわらず見た目は大きく異なりますし、能力も違います。それはチンパンジーは私たちの半分しか汗腺を持っていないからだといわれています。というのも、ヒトは体全体がエアコンのようなもので、汗腺から皮膚に絶えず水分を送り込み気化することで体内にこもった余分な熱を放出して、体を一定に保つことができるからです。その能力を得た結果として熱に弱い脳を大きくすることができたともいわれています。
若い人は汗をかくことを嫌がりますが、汗は人類を進化させるのに重要な働きをしているのです。
(弘邦医院・林雅之院長)
健康の「素朴な疑問」