名医が答える病気と体の悩み

物忘れが治療で改善するかどうか 認知症と高齢者うつの見分け方

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高齢者のうつ病で発生する物忘れとして、仮性認知症があります。医療機関に、ご家族が高齢の親を連れてきて、「物忘れはアルツハイマー型などの認知症か、うつ病によるものなのか」と質問されるケースは多いです。

 人間の脳は、ぼんやりした状態のときに「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる状態になります。実は、集中しているときよりもぼんやりしているときのほうが脳はエネルギーを多く使っており、無意識的に思考を張り巡らせています。思考の結果が認知機能をつかさどる「ワーキングメモリー」に送られ、入ってきた情報を頭の中で保持し、覚える必要があるかどうか整理していきます。

 うつ病による物忘れは「デフォルト・モード・ネットワーク」の段階で、心配事や不安が頭の中でぐるぐる回り、前頭前野が疲弊し一時的に認知機能が低下してしまうために起こります。抗うつ薬や運動療法といった治療によって、症状は改善していきます。

 一方、認知症の場合、脳全体の機能が落ちていきますし、進行は止められません。

 高齢者のうつ病と認知症にはそれぞれの見分け方があります。

 うつ病の大半は、配偶者の死や投資の失敗など大きなきっかけがあります。患者さんは物忘れのほか、不眠や食欲低下など体の不調を訴えます。また、脳自体の機能が落ちているわけではないので、たとえば、人物名を忘れたとしても、家族が時間をかけてヒントを与えれば答えられます。お金をなくした場合も、落ち込んだり、自分が管理できなかったからだと自責の念に駆られるのが特徴です。

 対して認知症は、特にきっかけはありません。物忘れなどの記憶障害が起きてきますが、物忘れ自体を否定します。「今日は買い物に行く日だ」と伝えても、「知らない。聞いていない」という具合です。脳の機能が落ちているので、喜怒哀楽の感情も薄れ、物事に興味を示さなくなったり、お金がなくなれば「あいつに取られた」と怒り出します。他責思考になります。

 いずれにしても、病院で脳の血流を評価する検査「脳血流シンチ」を受ければ 画像診断ではっきりします。

 高齢の家族の様子が不安な場合は検討してもよいでしょう。

▽田中伸明(たなか・のぶあき) 1993年諏訪中央病院東洋医学センター医局長、95年阪神大震災医療ボランティア、98年厚生省国立医療・病院管理研究所特別研究員、2002年竹田綜合病院内科・神経内科、07年京都産業大学経営学部教授などを経て、12年にベスリクリニック創設、現在はベスリグループ総院長。

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