がんと向き合い生きていく

同じがん、同じステージなのに…なぜ自分だけが再発したのか

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Rさん(46歳・男性)は、農業に従事されていてお米を作っています。

 体の症状はとくになかったのですが、胃の検診で要精査と言われ、病院で検査を受けたところ胃の出口付近にがんが見つかりました。がんは胃粘膜から筋層、胃の壁に及びましたが、リンパ節転移はなく、ステージ2という診断でした。

 すぐに手術を受けることになりました。胃の入り口の方を残し、残胃と空腸をつないだビルロートⅡ法という手術でした。手術後、数日で少しずつ食事を取れるようになり、10日後には退院となりました。

 2週間後、体重は手術前よりも7キロ減っていましたが、外来診察で食事の摂取状況を詳しく聞かれ、経過は順調であることが確認されました。さらに、抗がん剤の内服により再発率が10%ほど減るというエビデンスから、次回の外来から1年間、抗がん剤を内服することになりました。担当医によると「きっと大丈夫だと思いますが、念のためです」とのことでした。

 Rさんが手術を受ける際の入院中、Fさん(45歳)という男性が同室でした。Fさんは、同じ胃がん、同じステージ2で、Rさんよりも1週間前に手術を受けていました。担当医は違っていましたが、同じ“胃グループ”の医師でした。入院中は数日一緒で、お互いに「同病相哀れむ」などと冗談を言い合って親しくなりました。Fさんも「再発することはないだろう」と言われていて、同じ抗がん剤を1年間、内服することになっていました。

 Rさんは、手術後は体調も順調に良くなってきていたのですが、抗がん剤を始めてから、なんとなくむかむかする、不快な感じがありました。Fさんに電話で聞いてみると「同じ」とのことだったので、少し安心しました。なにしろRさんにとって、Fさんは“1週間先輩”です。なにかにつけ、相談できることを心強く思っていました。

 5カ月後の外来でも、Rさんは担当医から「手術は完璧だったし、きっと再発はないと思う。それでも1年間続けてみましょう」と言われました。

■抗がん剤も同じだったのに…

 10カ月が過ぎ、むかむかする感じは続いていましたが、Rさんは「あと2カ月で終わりだ」とガマンして、抗がん剤を飲み続けました。ところが、そのタイミングで受けたCT検査の結果と医師の説明に愕然としました。

「腹腔内のリンパ節が腫れています。再発です。3つの抗がん剤を使っての治療に変更します。最初は数日入院して、副作用が大丈夫であれば、2回目からは通院治療センターで行うことも考えます」

 この時は、抗がん剤治療で白血球が減るから感染に注意する、腎機能障害が起こらないように十分に水分を補給する、髪の毛が抜ける……といった説明がありました。

 Rさんはすっかり気落ちしてしまいました。そこで、夜になってFさんに状況をメールで報告したところ、すぐに「負けるな、頑張れ」との返事がきました。

「頑張れと言われてもな……そりゃあ頑張るけど……。例えば、米の凶作でどん底に落とされた時でも、頑張って努力して乗り越えてきた。先人の成功例はいろいろな本でも読んだ。でも、健康を損ねると、自分の頑張りや努力ではどうにもならないこともある。どう頑張ればいいのだろう?」

 Rさんはそう思いました。

 また、「それにしても、担当医から『きっと再発することはないだろう』と言われながら、自分は再発し、同じステージのFさんは再発がない。どこに何の違いがあるのだろうか?」と疑問に思いました。

 次の外来診察の際、Rさんは思い切って担当医にこの疑問をぶつけてみました。すると、こんな答えが返ってきました。

「その違いが、私たちにも分からないのです。この病院では、ステージ2では75%の方は再発していません。病理の検査結果でも、がん細胞の増殖に関係するタンパク質の『ハーツー(HER2)』は陰性でしたし……。それよりも、まずは治療を一緒に頑張りましょう。リンパ節転移が完全に消えた方もいらっしゃいます」

 Rさんはうなずいて、しっかり治療を受けるしかないと思いました。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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