Dr.中川 がんサバイバーの知恵

大腸がんで亡くなった島田陽子さんは積極的な治療を拒否 せめて原発部位の切除だけでも…

島田陽子さん
島田陽子さん(C)日刊ゲンダイ

 女優の島田陽子さんの訃報を聞いて、皆さんはどう思われたでしょうか。まだ69歳の若さで、大腸がんによる多臓器不全だったといいます。報道によると、3年前に大腸がんを発症。入退院を繰り返していたものの、がんの進行が遅かったそうで、手術や抗がん剤をしない治療を選択したというのです。

 今月21日には、関係者とLINEで食事についてやりとりしていたそうですが、その日に患部から大量出血。23日に意識が混濁し、25日に容体が急変。帰らぬ人となったといいます。

 壮絶な最期だったことがうかがえるでしょう。長年、がんの専門医をしている私としては、島田さんの選択はお勧めできません。

 手術と抗がん剤、放射線などの治療は、積極的な治療といいます。がんの種類によって、ステージごとにどの治療を行うかが細かく決まっていることは、皆さんも何となくご存じでしょう。これらを行わず、症状の緩和のみの治療を行うのが、ベストサポーティブケア(BSC)です。

 通常、BSCが選択されるのは、がんが進行して標準治療がなくなった場合。最初からBSCをチョイスするのは極めて例外的です。

 大腸がんが見つかった当初、ひょっとすると症状がなく、そのときと同じ体調のまま最期を迎えられると誤解して、BSCを選択したのかもしれません。実際、その誤解を持っている人が珍しくないのが現実です。

 しかし、大腸がんに限らず、どんながんであれ早期はほとんどが無症状で、がんが大きくなるにつれて周りの臓器や神経を圧迫したりして、さまざまな症状が現れることがほとんどです。

 島田さんは、大量出血が残念な結末の引き金になりましたが、それまで無症状で突然、大量出血することはまずありません。たとえば、原発部位が大きくなると、便の通り道が塞がれて腸閉塞に。それを放置すると、腹膜炎を起こしてかなりつらい。診断時に転移があったのかどうか不明ですが、いずれにしても原発部位だけでも手術で切除しておいた方が楽だったと思います。

 私は講演で一がん息災という考え方を紹介しています。たとえがんであっても、うまく検査しながら人生に折り合って生活していると、ひどくなる前に転移や別の病気などが見つかることがあって、結果的に生活の質を落とすことなく最期まで自分らしく生きられるという考え方です。

 そうやってがんと折り合いながら、標準治療がなくなって、苦しむことが予想される場合、私は痛みの除去など最低限の治療をお勧めします。末期がんの痛みはつらく、特にすい臓がんの末期に痛みの治療をしないと、寝たきりになることも珍しくありません。でも、痛みの治療をすると、病院のベッドから下りて、歩いて自宅に帰ることができます。

 島田さんはいろいろなことが報じられました。治療の決断の裏には、厭世観があったのでしょうか。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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