この10年で在宅診療所の数は大きく増えている。にもかかわらず、「基本は病院看取り」のイメージは変わらない。それは「自宅看取りは家族の負担が大きい」との過去の思いが固定化されているからではないか? 毎年200人以上の自宅看取りを行う「しろひげ在宅診療所」(東京・江戸川区)の山中光茂院長に聞いた。
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「いまは、医師や訪問看護師、薬剤師、訪問介護の方々、地域包括の職員、ケアマネジャーら、医療職と介護職がチームで患者さんを24時間見る時代です。正しい在宅環境を選べば、家族負担は減ると言い切れます」
実際、山中院長はチームで医療・介護を行っており、引き受けている在宅医療の家庭からは感謝される毎日だという。
「それでも在宅診療導入前に、『夜間に何か起きたら心配だから病院か施設に入れたい』という家族の思いを聞くことは多い。しかし、看取りが近い患者さんが、病院にいても急変時に医療従事者がその場にいるとは限りません。たまたまの巡回や朝になってから死亡がわかることもあります。そのとき家族は看取りに立ち会うことも、心の準備もないまま見送ることになるのです」
在宅診療なら患者の変化に応じて、医師やケアマネジャーが連携して病状に対する介護環境の説明、看取りまでの病状の変化やその心構えについて、丁寧に説明をしてくれる。当然、家族が最期を看取れる確率は高まる。
「ただし、病状急変時の医療は心配という声は聞こえてきます。しかし、真面目に24時間365日の在宅診療をやっている診療所だと、30分から1時間以内にはどの時間でもご自宅に伺い、専門的な医療を提供できます。病院だと、日頃の状態がわからない夜間のバイト医師に不必要な検査や不適切な処置をされる可能性もある。在宅診療では疾患にかかわらず、最期の時まで穏やかな表情をつくることが医師の仕事であり、家族に負担を感じさせないのがケアマネの仕事であって、それをヘルパーや看護師がサポートして患者さんや家族の方の日常生活を支えるということです。だからこそ家族は“愛情”をしっかり注ぐことが心穏やかにできるのです」
しかし、看取りに至るまでの患者の食事やトイレ、入浴の世話が不安という人は多い。
「すべてがラクだとはいいません。それでも、愛する家族のために、トイレや食事の介助、夜間のサポートもしたい、そういう思いが原点にある人は少なくありません。夜の不眠や不穏で家族が起こされるのが大変だと考えて、睡眠薬や安定剤を処方しようとしても、『私が赤ん坊の時に、親はこうやって面倒見てくれたのかなと思うんです』と語る家族の方もおられるのです。その一方で、愛情と日常に挟まれて耐えられないストレスになることもあります」
■地域が家族を支える
もし家族が患者の世話に疲れた場合は、2~4週間、病状の安定している患者を病院が受け入れる「レスパイト入院」制度がある。いまはそれで家族が休むことができる。
また、ヘルパーや看護師ら、自宅に他人を入れることを激しく断る患者や家族も少なくない。
しかし、相性の良い介護職が介入すると結果として本人の日々の生き甲斐のひとつになるという。
「家族が留守のときに患者ひとりで置いておくのが心配なら、病院や施設ではなく、日中に一時預かりしてくれるデイサービスなどの活用も可能です。朝に迎えに来てもらい、夕方に帰ってくる。昼ごはんや入浴サービスも付きますし、他人と関わることで患者と家族の生きるモチベーションにもつながります。帰ってきたら少し疲れて、以前より薬がなくても夜は早い時間からしっかり寝られるようになる方も多いのです」
在宅の不安のひとつに「痛い、苦しい姿を見せたくない、見たくない」という患者や家族の思いがある。
「それを、しっかりと医療で解決するのが在宅診療の役割であり、在宅医はその能力を持っていなければなりません。医療用麻薬やステロイド、鎮静薬をしっかりと適切に使うと、家族の介護への負担感が減るだけではなく、本人の痛みや苦しみが和らぎ、自立した活動につながることもあります。また、家族が望まない施設入所を勧めたり、介護環境が整っていないことを理由に、無責任に入院を勧めるケアマネジャーに対して、経験豊富な有能な在宅診療医なら側面から患者や家族に援護射撃することでトラブルを解決することもできます」
毎年の死者が140万人を超える多死社会ニッポンでは、家族の看取りを病院に丸投げすることも不十分な介護施設に任せることも不安が残る。いまこそ自宅看取りを真剣に検討してはどうか。