酷暑に命を守り、健康を維持する「エアコン」の正しい使い方

設定温度を25度以下に(提供写真)
設定温度を25度以下に(提供写真)

 各地で気温40度前後の危険な猛暑が続いている。熱中症予防のためにエアコン(クーラー)の使用が推奨されているが、しっかり活用できている人は多くないという。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏に健康を維持して猛暑を乗り切る正しいエアコンの使い方を聞いた。

「エアコンは、もっとも命に直結する生活家電といえます。かつては『エアコンをつけっぱなしにしていると体に悪い』と言われていましたが、むしろ逆で、健康維持のためには夏は就寝中もエアコンを切ってはいけません。熱中症は40%が夜間に発生していて、死亡は『高齢者』『室内』『夜間』という条件が多い。厚労省のデータでは、2020年夏に東京都23区で熱中症により死亡した人の約90%が65歳以上の高齢者で、そのうちの90%超がエアコンを使っていませんでした」

 高齢者は体内の水分量がただでさえ少ないうえ、暑さや喉の渇きを自覚する感覚が鈍くなっている。さらに、自律神経の働きが衰えて体温調節機能が低下し、暑い環境では循環器系への負担が増大する。熱帯夜にエアコンを切って就寝していると、脱水を起こして熱中症のリスクがアップするのだ。

 エアコンは自律神経の疲弊にも大きく関わっている。自律神経は、体温、血圧、呼吸、心拍数、消化吸収、睡眠、摂食など、われわれが生命を維持するために必要な働きをすべてコントロールしている。

「自律神経=脳がもっとも酷使されるのは、体温を一定に保つために働くときです。暑い夏は、体内にこもった熱を放散するために発汗を促したり、体表の血管を拡張して血流を増やして対応しています。自律神経は質の高い睡眠によって疲弊を回復していますが、気温が高い環境で就寝していると、自律神経はずっとフル回転を強いられ、十分に休息できないのです」

 自律神経が疲弊し切って交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、消化器の不調、便秘、下痢、食欲不振、頭痛、めまい、抑うつ、不眠、慢性疲労、倦怠感、動悸など、心身のさまざまな不調を引き起こす。

「そのまま放置していると、自律神経系だけでは生命維持機能をコントロールすることができなくなるため、それを補うために内分泌系や免疫系が稼働します。そうなると、インスリン抵抗性が高まったり、血圧が高くなったり、肥満を招き、糖尿病、脂質異常症、高血圧、心血管疾患、がんといった命に関わる病気のリスクがアップします」

■設定温度は25度以下で就寝時も切らない

 エアコンは、全身の病気を予防するためにも重要なのだ。では、健康維持のためにはエアコンをどのように使えばいいのか。

「設定温度を25度以下にして、在宅時は就寝中も含めて常につけっぱなしにしておくのが理想です。自律神経中枢がある脳は発熱量が多くオーバーヒートしやすいので、常に冷却が必要です。脳を冷やすためにもっとも有効なのが、鼻から冷えた空気を吸うことです。鼻腔の奥には脳とつながっている毛細血管がたくさん通っていて、鼻呼吸で冷たい空気を通過させれば、熱交換によって脳を冷やすことができるのです。脳にとって最適な温度は、人類共通で22~24度であることがわかっています。ただ、体の最適温度は筋肉量によって異なり、体が冷えすぎると脳=自律神経中枢は体温を上げようとするため、就寝中では睡眠の質が落ちてしまいます。日本人の平均的な体格を考慮すると、24度設定では体が冷えすぎてしまうケースもあるので、冷えを感じたらカーディガンなどを1枚羽織ったり、就寝時は冬用の厚手の掛け布団をかぶって眠るのがおすすめです」

 就寝中に目が覚めて睡眠の質を低下させる中途覚醒の時間が2時間以上の人は、10分未満の人と比べて夜間の平均気温が約2度高いというデータがある。睡眠効率が65%未満の人は、95%以上の人と比べて夜間の平均気温が約3度高いこともわかっている。

「また、気密性の高いマンションは深夜に高温になりやすいという報告があります。夜にエアコンを切ると昼のうちに壁に蓄えられた熱が放射熱となって、外気温以上に室温が上昇するためです。こうしたデータを考慮しても、就寝中もエアコンを切らないようにすべきです」

 いまは節電が呼び掛けられ、エアコンをつけるのをガマンしたり、設定温度を28度前後にしている人も少なくないだろう。しかし、その結果、熱中症をはじめとした病気を招いたり、睡眠の質が落ちて体調を崩してしまえば本末転倒。節電するならエアコン以外の電化製品を使わないようにしたほうがいい。

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