高齢者の正しいクスリとの付き合い方

高齢者に多く処方されている「かゆみ止め」にも副作用がある

写真はイメージ
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 高齢になると、体にさまざまな変化が起こります。そのひとつに体内水分量の減少があり、主に細胞の中の水分量が減っていきます。細胞の中の水分は脱水になりそうなときの水分の供給源にもなります。それが少なくなるということは脱水になりやすくなるということでもあり、これは高齢者が熱中症に陥りやすい理由のひとつです。

 そして、皮膚も細胞からできています。皮膚の細胞の水分が少なくなると、皮膚が乾燥してかゆみが出てきます。高齢者では皮膚のかゆみを訴える方も多く、そうしたときによく処方されるのがかゆみ止めのクスリです。

 かゆみ止めには内服薬や外用薬などさまざまな種類がありますが、まずは内服薬についてお話しします。かゆみ止めとして使われるクスリの多くは「抗ヒスタミン薬」と呼ばれるものです。体の中でヒスタミンという物質が反応すると、かゆみなどのいわゆるアレルギーといわれる症状が出てきます。抗ヒスタミン薬は、このヒスタミンの働きを抑えることでアレルギー症状を改善します。

 抗ヒスタミン薬の歴史は長く、市販の風邪薬に含まれているほど安全性も高いと考えられています。そのため、かゆみを訴える高齢者にもよく処方されていますし、私も頻繁に目にします。これは決して良いことではないのですが、中には複数の病院から似たような抗ヒスタミン薬が重複して処方されているケースもあります。

 さて、この抗ヒスタミン薬ですが、他のクスリと同様に副作用が当然あります。代表的なものとして、眠気、口渇感(口や喉がカラカラになる)、便秘が挙げられます。

 眠気は、抗ヒスタミン薬の作用が脳にも影響することによって起こります。脳に作用する度合いは抗ヒスタミン薬ごとに異なっていて、中には脳への作用が弱い=眠気が起こりにくいものもあります。花粉症の時期によく見かける市販のアレルギー薬のCMで、「眠くなりにくい!」とうたっているものを見かけますよね。これは、脳に作用する度合いの少ない抗ヒスタミン薬が主成分になっているタイプなのです。

 口渇感や便秘は抗ヒスタミン薬が持っている抗コリン作用の影響で生じます。簡単に言うと、抗コリン作用が起こると唾液の分泌が抑えられ、これが口渇感の原因となるのです。また、大腸などの消化管の動きも悪くするため、便秘の原因にもなります。

 このような抗ヒスタミン薬が持つ副作用は、みなさんが健康的に生活していくうえで、さまざまな害をもたらす可能性があります。もしも、「そんなこと言っても、たかがかゆみ止めのクスリでしょう?」という考えをお持ちの方がいらっしゃるようなら、少し改めたほうがいいかもしれません。次回、詳しくお話しします。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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