認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

糖尿病・高血圧・脂質異常症は、なぜ脳にもダメージ与えるのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病、高血圧、脂質異常症の生活習慣病は、「2つ、ないし3つとも」という人が珍しくありません。もっと言うなら、肥満の人は、糖尿病、高血圧、脂質異常症の3つの生活習慣病を抱えている人が多い。その理由は、肥満は糖尿病の主なリスク因子であり、高血圧、脂質異常症の主なリスク因子でもあるからです。

 肥満になると、「TNF-α」「レジスチン」という物質の分泌量が増えます。これらは脂肪を蓄える白色脂肪細胞から分泌されるもの。TNF-αとレジスチンの量が増えると、血液中のブドウ糖が肝臓・筋肉・脂肪組織へと取り込まれにくくなり、血液中に糖が停滞して高血糖になります。糖は「酸化」などの化学反応から血管の内側の壁を傷つけ、血管にダメージを与える性質があるため、高血糖が続くと、動脈硬化が進行します。

 肥満は、血管を収縮させるアンジオテンシノーゲンという物質も増加させます。すると血圧が上昇し、血管の壁に負担をかけ、やはり動脈硬化の進行につながります。

 肥満は、脂質異常症の原因でもあります。肥満によって遊離脂肪酸という物質が血液中に増え、その一部が肝臓で中性脂肪やコレステロールに変わり、血液中に戻され、結果、血液中の脂質が増えるから。糖尿病、高血圧と同様に、動脈硬化を進行させ、血管にダメージを与えます。

 動脈硬化で血管がもろくなれば、心臓では狭心症や心筋梗塞、心不全、脳では脳梗塞、脳出血などの脳血管障害を引き起こします。血管性認知症になりやすいこと、アルツハイマー病になるリスクが高まることも、報告されています。

■高齢になってからの対策では不十分

 40代、50代くらいですと、認知症についてはまだまだ先というイメージがあるかもしれません。もうちょっと年を取ってから対策を講じても遅くないのでは--? そう考えている人もいるでしょう。

 しかし、糖尿病は「発症後10年以内なら、肥満を解消し肝臓と膵臓に蓄積した脂肪を減らすだけで、糖尿病が『治った』と同じ状態(=寛解)を維持できる」という発表があります。言い換えれば、早い段階で生活習慣を改善し、脂肪を減らさなければ、寛解が難しい。

 また、中高年の時に高血圧を放置していると、高齢になってから認知症になる確率が高まることがわかっています。

 さらに脂質異常症に関して、40~60代で高コレステロール血症(LDLコレステロール、いわゆる悪玉コレステロールが高い)になり、そのまま放置していると、アルツハイマー病になりやすいことが明らかになっています。高齢になってから脂質管理を始めても、認知機能の低下を防ぐ効果は得にくいとされているのです。認知症対策は、すなわち生活習慣病対策でもあるのです。

 とても長いスパンで考えるなら、「認知症のなりやすさ」、つまり体質が、親から子へと伝わっていくともいえます。

 濃い味を好むか薄味嗜好か、野菜多めのバランスの取れた献立か肉中心や単品中心の献立か、体を動かす習慣が普段からあるかどうか、間食が日常的かどうか、喫煙やアルコール習慣が身近にある環境かどうかなど。

 これらは、家庭ごとに「傾向」があり、親がしていたことは、子が長じてからも受け継いでいるケースがよくあります。「太りやすい家系」「痩せやすい家系」とはよく聞く言葉ですが、もちろん、体質もあるものの、親から子へと受け継がれた生活習慣も大きく関係しているように思います。

 アルツハイマー病の発症に関係するアミロイドβは、長い年月をかけて蓄積します。だから40~50歳代に検査を受け、アミロイドβの蓄積具合によっては、積極的な対策を講じていくことは重要。そして理想を言うなら、認知症になりやすい生活習慣・なりにくい生活習慣を考えるなら、40~50歳代とは言わず、それこそ思い立った時から、子の健康的な将来を確立する上でも、行動変容を試みたほうがいいかもしれません。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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